■百花繚乱。欧州サッカーのレジェンドたち

 もうひとり、「若手」で活躍するのが、アルディレスからパスを受け、ムーアの同点ゴールにアシストしたノルウェー代表選手のハルバー・トーレセンである。ノルウェーがまだ国際的に強くはなかった時代だから、日本のファンにはあまりなじみのない名前かもしれない。しかしオランダのFCトゥエンテで活躍し、この映画の撮影が行われていたころにはクラブのトップスコアラーだった。当時24歳。明るい表情が魅力で、プレーの場面だけでなく、演技の場面でもチームのムードメーカーとして何回も登場する。彼の役どころはノルウェー兵士の「グンナー・ヒルソン」であり、チームにはノルウェー人の捕虜もいたことから、納得のいく配役ではある。

 この映画を撮影したとき39歳。引退して1年以上たっていたものの、まだ鍛え上げられた体をしていて元気にプレーし、演技でも渋いセリフをはいていたのが、マイク・サマービーである。「シド・ハーマー」という英国軍人役だった。サマービーはイングランド代表としては出場8試合、1得点にとどまったが、1960年代から70年代にかけてのマンチェスター・シティきってのスターFWで、357試合に出場して47ゴールを決めている。ドリブルの名手として、非常に人気があった選手だ。この試合では、後半に左足で強烈なシュートを決めている。

 「欧州組」では、ベルギーのスーパースターだったポール・バンヒムストも「ミシェル・フリュー」という役名で登場している。彼はアンデルレヒトで457試合に出場して233ゴール、ベルギー代表でも81試合30ゴールという記録を残し、ベルギー・サッカーの「レジェンド」という存在で、この映画のときには38歳だった。

 もうひとり、欧州サッカーの「レジェンド」がいる。フルネームはヤコブス・ビレムス。だがオランダのサッカー界では短く「コ・プリンス」の名で知られている。アヤックスで活躍し、ドイツのブンデスリーガが誕生した1963年にはカイザースラウテルンに移籍してストライカーとしてスターになった。いわば、ヨハン・クライフに先立つオランダサッカーのシンボルだった選手だ。「ピーター・ファンベック」というオランダ人捕虜の役だった。

 1938年アムステルダム生まれの彼は当時すでに43歳。すでに引退して6年が経過しており、体もだいぶ太くなっていた。ドイツ軍チームとの試合の序盤に相手のひどいファウルを受けて交代を余儀なくされるという役柄だが、オランダのファンにとっても、コ・プリンスのプレーや話し方を見る機会はもうない。彼は映画が発表されて6年後の1987年に心臓発作を起こし、49歳の若さで亡くなっている。

※第3回につづく
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