■アルディレスの華麗なドリブルを見よ

 試合は「ドイツ軍チーム」がキックオフから圧倒的に攻め、GKを務めた「素人」ハッチの拙守もあってたちまち4-0(この試合は、会場はパリだったが、ホームは「ドイツ軍チーム」で、アウェーは「連合軍チーム」だった。だから4-0である)となった。しかし「連合軍チーム」は前半終了直前に1点を返す。左サイドの突破からのクロスに対し、ファーポストまで駆け上がって右足インサイドで合わせてゴールに叩き込んだのが、ボビー・ムーア演じるブレイディだった。

 通常、映画では、サッカーのプレーの場面も、時代劇の「殺陣」のように、「こうドリブルしたらこう抜かれる」「こうパスをして、突破をする」などの「筋書き」があり、それに従ってプレーし、撮影が進められる。しかしこの『勝利への脱出』では、どうやら役を振り当てられたチーム同士でかなり真剣にゲームが行われた形跡がある。試合の全シーンがそうというわけではないが、真剣にゲームをやっていなければあんなに自然な流れは生まれない。もちろん、左から入れられたクロスと、ムーアのシュートシーンの間には、何回かの「テイク2、3、4……」があっただろうが。

 さて、そのムーアの1点の前に中盤でたくみにドリブルして相手を引きつけ、左サイドを突破させるパスを送るのが、アルゼンチン代表選手オスバルド・アルディレス扮する「カルロス・レイ」である。どう見てもスペイン系の名前だが、この大戦ではスペインは親独の「中立」ということになっており、参戦はしていない。いったいどこの国の人の設定だったのだろうか。

 1978年ワールドカップ優勝の立役者のひとりで、後に清水エスパルス横浜F・マリノス東京ヴェルディ監督として大きな足跡を残すアルディレスは、この映画のとき29歳。イングランドのトットナム・ホットスパーでファンから熱愛される中盤のスターだった。そして映画公開の翌1982年にスペインで開催されたワールドカップでは、21歳のディエゴ・マラドーナを助けて中盤で奮闘する(ちなみにこの大会の彼の背番号は「1」だった)。

 小柄で細いアルディレスだが、そのテクニックと流れるようなプレーは、サッカーファンにとっては、この映画の大きな見どころと言ってよい。後半にはドリブル突破で追撃の1点を決めるのだが、果敢にドリブルで突っかけ、ドイツ軍の2人がかりの反則タックルで吹っ飛ぶシーンは、とても指導された演技でできるものではない。

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