■岩渕にはこのタイミングしかなかった
GKケイレン・シェリダンも判断を誤った。長谷川からロングボールがけられた瞬間、彼女は自分で処理できると思ったのか、少し前に出た。しかしボールは岩渕の前でバウンドし、それを追って岩渕がペナルティーエリアに近づいてくる。シェリダンは懸命にバックステップしてポジションを取ろうとした。
普通なら、岩渕はここでワンタッチもち、ペナルティーエリアにはいってシュートを打っただろう。しかし左からはこの試合で「スーパーディフェンダー」ぶりを発揮していたブキャナンがカバーにくる。もう一歩もったら、その強烈なフィジカルにつかまる。2バウンド目でボールに追いついた岩渕は実にあっさりとシュートを放った。それもペナルティーエリア外から右足インサイドキックで軽く浮かせて。しかしこのタイミングしかなかった。
ブキャナンはあと一歩で追いつけず、GKシェリダンはポジションを取ろうと忙しく足を動かして下がっている最中だった。GKというのは、両足をつけているときにはすばやくシュートに反応でき、カバーできる範囲も広がる。もしシェリダンが足を止めてこのシュートに対していたら、岩渕のシュートはけっして強くはなかったから、十分止められたのではないか。しかし岩渕は「ここしかない」というタイミングで、正確にゴールにボールを送り込んだのだ。
興味深いのは、長谷川のポジションである。長谷川は左MFとして先発し、ときおり中央にはいったが、ほとんど左サイドでプレーしていた。しかし高倉麻子監督は、後半17分、右MFの塩越柚歩に代えて左サイドを得意とする左利きの遠藤純を投入し、長谷川を右MFに回したのだ。岩渕との呼吸のあったパス、岩渕のスピードを知り抜き、正確に落下地点に落としたパスは見事としか言いようがなく、長谷川を右サイドに置いたことが生きた得点だった。