■二枚重ねのユニホ-ムに思いを込めて
シャツを脱ぎ、あるいはまくり上げて、アンダーシャツに書かれたメッセージを示すというゴールパフォーマンスが一時期流行した。名古屋グランパスでプレーしていたドラガン・ストイコビッチは、1999年3月、コソボ紛争に介入した北大西洋条約機構(NATO)が祖国セルビアを空爆したことに抗議するため、「NATO STOP STRIKES」とアンダーシャツに手書きしたメッセージを示した。ただこれは得点後ではなく、チームメートへのアシスト後のことだった。
こうした政治的なメッセージだけでなく、母親の誕生日を祝うメッセージ、宗教的なスローガンなど、一時はさまざまなメッセージが花盛りになったが、ルールでは、サッカーの用具にいかなるメッセージをつけることも禁止さている。
ただ、1997年のワールドカップ・アジア最終予選、グループ最終戦のカザフスタン戦で中山雅史が見せた「パフォーマンス」はどうだろう。得点を決めた後、彼は国立競技場ゴール裏スタンドのサポーターに向かって何か叫ぶと、自陣に戻りながらメインスタンドに向かって自分のシャツの前をまくり上げて見せた。何と、彼は背番号32の青いユニホーム(「炎のユニホーム」である)の下に、もう1枚、ユニホームを着ていた。そしてその胸には、11番がついていた。
「11」といえばカズである。カズはこの前の試合、ソウルで日本が起死回生の1勝を挙げた試合で予選2枚目のイエローカードを受けて、同様に2枚目のイエローカードを受けた呂比須ワーグナーとともにこのカザフスタン戦は出場停止になっていた。レギュラーのFW2人を欠くことになった日本代表の岡田武史監督は、予選と並行して行われていたJリーグで絶好調だった中山を緊急招集し、カザフスタン戦に先発させた。2年5カ月ぶりの代表戦だった。
もちろん、中山の「パフォーマンス」は、親友であり、尊敬する先輩であるカズへのリスペクトを示すものだった。自陣に戻りながらちょろっと見せただけだったためか、「おとがめ」はなかった。