■田中が見せたピッチ上の監督の振る舞い

 田中がピッチを去ったのは63分。板倉滉との交代だった。それまでの田中はピッチを縦横無尽に走り、ボールを奪い、受け、配給して、を繰り返した。それが青いユニフォームにリズムを生んだことは、説明の必要がない。そして、そのプレーと同じくらい大きかったのが「指示」だ。

「右、右!」や「来てるよ!」といったごく当たり前のことだけではない。たとえば、GK谷晃生にボールが戻った場面。谷がすぐにボールを出そうとするや、「まだまだまだ!」と制止、その後に谷が再びパスしようとするも、「まだまだ! 前見て! まだだよ!」と、前線がポジションを整えるのを見守り、それが整ってから「もう出していいよ!」とビルドアップを促す。田中のこうした場面が随所に見られた。その姿は、ピッチの監督のようだった。

 ところが、その田中がいなくなってからは、そうした声を出す人がいなくなった。80分に吉田麻也と酒井宏樹が交代してからは、ピッチの声はさらに少なくなった。そうした選手たちを見ながら森保監督は、「後ろから声を出して!」「もっと声かけて」と口にした。田中不在の影響は大きかった。

 その田中は、試合が終わるやすぐに板倉に身振り手振りで何かを話していた。その動きから、試合における動き方やポジショニングで指示を出していたことは明白だ。田中の「声」は、チームを動かし、修正を動かす。“ピッチ上の心臓”は“チームの心臓”であり、“川崎の心臓”は“日本代表”の心臓なのだ。

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