大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第65回 熱狂と混乱の「アディショナルタイム」(3)Jリーグで最も残念な「アディショナルタイム事件」の画像
掴みかけた夢がロスタイムにこぼれ落ちた「ドーハの悲劇」  写真:岡沢克郎/アフロ
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ピッチの中もベンチも観客席も、みんな表情がこれまでと違って見える。掲示板に目をやれば、時計の針はすでに「45分」で止まっている。アディショナルタイムに突入だ。特別な時間の始まりだ。数々の事件が起きてきた——。「ドーハの悲劇」の時計の謎、ワールドカップ予選で謀議をもちかけられた国際レフェリーの告白、Jリーグでの「18分50秒」のアディショナルタイム——。さあ、ドラマの幕開けだ。

■「18分50秒」のアディショナルタイム

 さて、Jリーグで最も残念な「アディショナルタイム事件」は、2018年11月24日、J1の第33節に日本平で行われた清水エスパルスヴィッセル神戸だろう。さまざまなアクシデントや混乱に加え、主審の勘違いで18分50秒ものアディショナルタイムになってしまった事件である。

 この試合を入れてJ1は残り2節。清水にとってはホームでの最終戦であり、神戸にとってはルーカス・ポドルスキーやアンドレス・イニエスタといった世界的なスターを補強しながらこの時点でまだ続いている残留争いから抜け出さなければならない試合だった。勝ち点41の神戸は12位だったが、「降格圏」の16位名古屋グランパス(勝ち点37)との差は4。なんとしてもこの試合に勝って残留を決めてから最終節、ホームでの仙台戦に臨みたいところだった。主審は柿沼亨氏である。

 試合は激しいものとなった。前半26分に神戸が藤田直之のゴールで先制したが、清水は前半のうちに河井陽介のゴールで追いついく。しかし神戸は後半に古橋亨梧三田啓貴のゴールで突き放す。そして後半38分に神戸の藤田が2枚目のイエローカードで退場になった後、清水がドウグラスのヘディングシュートで1点を返し、時計は後半45分を経過する。第4審判の数原武志氏が掲げたボードには、アディショナルタイム4分が示されていた。

 10人の神戸を相手に猛攻をかける清水。自然と、後方からのロングボールが多くなる。そうした攻撃のひとつがはね返されたボールが、小さくペナルティーエリアの右外に飛んだ。飛び込んでヘディングでゴール前に戻そうとする河井。だがその直後、神戸DF橋本和と空中で頭を激しくぶつけ合い、倒れる。プレーは流されたが、中盤に戻ったところで柿沼主審が笛を吹いてプレーを止め、河井のところに戻る。すぐにドクターが呼ばれ、診察が行われる。

 柿沼主審が笛を吹いてプレーを止めたのがアディショナルタイムにはいって3分36秒。残る試合時間は1分あるかないかのはずだった。だが4分20秒後に試合が再開されたとき、柿沼主審は大きな思い違いをしていた。当初示した4分間に4分20秒を加えなければならないと思ってしまったようなのだ。

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