大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第65回 熱狂と混乱の「アディショナルタイム」(1)追加時間に3得点して勝利の画像
掴みかけた夢がロスタイムにこぼれ落ちた「ドーハの悲劇」  写真:岡沢克郎/アフロ
ピッチの中もベンチも観客席も、みんな表情がこれまでと違って見える。掲示板に目をやれば、時計の針はすでに「45分」で止まっている。アディショナルタイムに突入だ。特別な時間の始まりだ。数々の事件が起きてきた——。「ドーハの悲劇」の時計の謎、ワールドカップ予選で謀議をもちかけられた国際レフェリーの告白、Jリーグでの「18分50秒」のアディショナルタイム——。さあ、ドラマの幕開けだ。

柏レイソルが90分を過ぎてから3ゴール!

 6月27日に行われたJリーグ第20節、湘南ベルマーレ対柏レイソルは驚きの試合だった。ホームの湘南が2−1とリードして試合はアディショナルタイムにはいったのだが、ここでドラマが生まれた。4月24日以来、2カ月間以上も勝利がなく、その間1分け7敗、4日前には浦和レッズにホームでいいところなく0−2と敗れて4連敗となった柏が猛攻をかけ、3点を奪って4−2で逆転勝ちしてしまったのだ。

 口火を切ったのはDFの大南拓磨。アディショナルタイムにはいって2分14秒(公式記録の時間では「90+3’」、神谷優太の粘りを受けてゴール前で押し込んで同点とする。続いて8分27秒には左の角度のないところからクリスティアーノが左足を一閃、湘南のオリンピック代表GK谷晃生の読みの逆をついて低くニアポストを破り、逆転。そして11分08秒、右サイドバックの北爪健吾が右から入れたボールをペドロハウルが流し込んで4点目を決めたのだ。

 この試合は、後半に2回にわたって長時間のVARチェックがはいり、後半アディショナルタイムは「9分」と掲示されていた。しかし第4審判がこの掲示を出している間にも、直前のクリスティアーノのヘディングシュートがゴールを割っていたかどうかのVARチェックが行われており(これは短時間で終わった)、10分を超すのは必然だった。そして3つのゴールがはいったために11分以上に伸びたのだ。ペドロハウルの4点目が決まると、湘南のキックオフを待たずに試合終了の笛が吹かれた。

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