スペインのラ・リーガは2020-21シーズンを終えたが、久保建英の挑戦はまた新たな局面を迎える。
保有権はレアル・マドリードにあるが、これまでは出場機会を求めて他クラブを期限付き移籍で渡り歩いてきた。来季に向けて最適な居場所を見極めなくてはならない。
その才能に疑いの余地はなく、日本国内での期待も当然ながら高い。ここまでの歩みだけでも日本を沸かせるに十分だが、その「熱」に浮かされてはいけない。
10代にしてスペインで戦う若者を、冷静に見つめる正しい「尺度」が必要だ。
※前回記事「あるスペイン代表の示唆に富む言葉」は、こちらから
■19歳に1億ユーロを払う理由
10代でリーガでブレイクする「条件」は何だろうか。
キーワードは「移籍金」と「カンテラ」だ。
例として挙げられるのは、ジョアン・フェリックス(アトレティコ・マドリード)、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエス(共にレアル・マドリード)、フェラン・トーレス(前所属バレンシア/現所属マンチェスター・シティ)、アンス・ファティ(バルセロナ)といった選手たちである。
フェリックスは2019年夏、移籍金1億2700万ユーロ(約165億円)でベンフィカからアトレティコに移籍した。同年夏にバルセロナに移籍したアントワーヌ・グリーズマンの後釜として、19歳のアタッカーが選ばれた。「リスクはあるが、20歳になろうかという選手を獲得したんだ。若ければ若いほど、減価償却の可能性は大きくなる。現在の状況で、フェルナンド・トーレスや(リオネル・)メッシのような選手を自クラブで見つけるのは難しい」とはアトレティコのエンリケ・セレソ会長の言葉だ。
クラブとしては、高額な移籍金で選手を獲得したとしても、若ければその後の「見返り」に期待できる。仮にフェリックスが2030年までアトレティコにいるなら、大きなケガがない限り、トップレベルでプレーを続けるだろう。その過程でフェリックスを欲する他クラブが現れた場合、アトレティコ側は高額な移籍金を要求できる。その額が支払われないのであれば残留させればいいという、強気の交渉が可能になる。
選手にとっては、大きな期待がプレータイムの保証につながり得る。ショーケースに載せるためにも、クラブとしてはその選手を試合に出す必要があるからだ。指揮官の理解という問題はあるが、アトレティコのディエゴ・シメオネ監督にその心配はない。
無論、重圧はある。”1億2700万ユーロの男”という看板が、いつまでもつきまとうからだ。それでも、「試合出場」という選手の希望と「売却/減価償却」というクラブの思惑はWin・Winで機能する。