■計算が立つカンテラーノ

 先行投資に加えて、もうひとつポイントになるのが、「カンテラ」である。

 近年では、フェラン・トーレスとアンス・ファティが好例になるだろう。

 フェランはバレンシアのカンテラで育ち、2017年12月に17歳9カ月20日でリーガ1部デビューを飾る。初年度には13試合、翌2018-19シーズンは24試合、19-20シーズンは34試合と、順調に出場機会を伸ばしていった。

 ファティは2019年8月に16歳298日でトップデビューを飾った。今季、負傷により長期離脱を強いられたが、ロナルド・クーマン監督には主力としてカウントされていた。

 フェランとファティの才能に疑いの余地はなく、バレンシアとバルセロナは手塩にかけて育ててきた。育成年代から見ているため、プレーの特徴や性格まで把握している。語弊を恐れずに言えば、「扱いやすい」選手たちだ。あらゆる面で、計算が立つのだ。

 久保はフリーでレアル・マドリードに加入した。FIFAによる処分は不運であったが、R・マドリードがカンテラ時代から育て、そのままトップデビューを飾らせた選手ではない。つまりは、使い勝手を熟知しているわけではないが、「金の卵候補」が転がり込んできた、というわけだ。

 R・マドリードとしては、完全移籍で彼を獲得したいというクラブが出てきた段階で、採算上は「プラス」なのである。現在のR・マドリードは新型コロナウイルスの影響で財政が圧迫されている。次の夏に選手売却で金をつくるのは、既定路線のプランだ。自分の立ち位置を理解した上でうまく活用する賢さが、久保に求められることになる。

 単にピッチ上での「やれている」「やれていない」という二元論で久保を評価するのは、もはや不可能なのだろう。久保は今年6月に20歳になる。もう「久保君」ではない。試合に出られない状況が続いた後だからこそ、我々は熟した思考で彼を見なければいけない。

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