大住良之の「この世界のコーナーエリアから」連載第60回「大きかろうと小さかろうと」(3) 「空中の芸術家」は身長170センチの画像
JEF千葉でプレーしたFWオーロイと深井正樹の身長差は43センチ 写真:アフロ

※第2回はこちらから

 かつてJEF千葉に身長204センチのFWオーロイがいたころ、ヘディングの競り合いで、身体に足をかけてよじ登ったDFがいたのには驚いた。彼はJリーグ史上で最長身の選手であり、フィールドプレーヤーとしては世界でもっとも高いと紹介されていた。同チームだった166センチの町田大和(現在は大分トリニータ)と並ぶと、倍以上は高く感じたものだ。そんなわけはない? でも、身長はサッカーでもっともいいかげんなデータなのである。

■「空中の芸術家」は身長170センチ

 世界では、何と言ってもウーベ・ゼーラーだ。1950年代から1970年まで西ドイツ代表で活躍したこのセンターフォワードは、毎日チーム練習が終わってからヘディングシュートの個人練習を長時間やり、ついに「空中の芸術家」となった。1970年ワールドカップの準々決勝、イングランド戦で決めたバックヘッドは、誰にも真似のできないものだった。ハーフラインあたりからゴール前に送られたロングボールに対し、ゴールを背にしたまま高くジャンプして頭に当て、ふわりと浮かしてゴールに流し込んだ。

 岡野俊一郎さんは、「ハンブルガーSVの練習場は、ゼーラーが毎日ヘディングシュートの練習をするため、その走るコースだけ芝生がはげてしまっている」という逸話をよく紹介していた。

 彼は1972年1月に所属のハンブルガーSVとともに来日、日本で数試合をこなしたが、そのヘディングの技術と打点の高さは、日本代表として対戦した釜本邦茂もうならせた。当時のドイツ雑誌が伝えるところによればゼーラーは、身長は170センチだった。

 ヘディングが特技という枠を外せば、小柄な名選手はいくらでもいる。ペレも170センチほどだったし、ディエゴ・マラドーナは現役時代は168センチと称していたが、実際には160センチをわずかに超える程度だった。それでも圧倒的なスピードとテクニック、視野の広さで世界を凌駕した。彼の「後継者」ともいうべきリオネル・メッシも「公称」170センチである。

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