②サッカーは誰のものか

 そういう部分で、最後にもう一つ気になることがある。

 スーパーリーグは、レアルのペレス会長がトップの組織にバルセロナが役職なしのヒラとして名を連ねている。他にも、副会長のユナイテッドに対してシティはヒラで、リバプールはユナイテッドと仲良く副会長の座に納まった。

 金のためならばアイデンティティやイデオロギーに関係なく足並みを揃えてライバルと手を取り、その下に加わることも厭わないその姿に幻滅したファンは、たとえ事態が丸く収まったとしても、もうかつてのように我がチームを愛せないかもしれない。

 どういう結末になったとしても、12チームはまず高潔さを取り戻すところからのスタートになるはずなのだが、どうやらそんなことは上の人間にとってもはや関係のないことなのかもしれない。

 UEFAの足下を見ることができるほどの顔触れが揃ったスーパーリーグ側はあくまでも強気だ。現在チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグのベスト4に残っている8チームのうち、過半数の5チームが新たなリーグに抜けていくことになるのだから、当然だったのかもしれない。

 しかし、ビジネスとして考えても、ここまでファンを置き去りにすることが平気だったのはなぜだろうか?

 これまでのファンを全て失ったとしても、世界中にいるファンや協賛企業がお金を落とす。そしてその方が断然儲かる。

 そういう考え方で動いているように思えてならない。実際にペレス会長は話の焦点を「新しい時代に合わせてサッカー界も変わるべき」という部分に持っていこうとしている。

 仮に分配金の増額で手打ちとなった場合も、今の状況では、結局金だった、ということになるが、そんなことも関係ない。拳を振り上げたスーパーリーグ側はあくまでも上から目線だ。リリースには「UEFA・FIFAとの話し合いを楽しみにしている」と記している。

 結果として、イギリスでは、政府だけでなく王室も加わり(ウィリアム王子はFAの総裁)、発表された計画を阻止するために力を惜しまないことを表明。リバプールのキャプテン、ジョーダン・ヘンダーソンはプレミアリーグの全クラブのキャプテンにミーティングを提案し、ファンは抗議の声を上げ続けた。プレミアリーグは該当クラブを除いた14クラブが会合を開き、参加クラブに対してスーパーリーグから離脱するよう呼びかけた。

 こうした事態を受けて、マンチェスター・シティは早々に撤退を表明。その他のプレミア勢もそれに続くことになった。
 
 FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長はUEFA総会で該当クラブに警告し、UEFAは加盟する55協会が満場一致でスーパーリーグを非難する宣言を採択した。

 2日もたたずに座礁したスーパーリーグ。早い決着になりそうだが、元に戻ることが本当の解決ではないことを忘れてはならない。

 ビジネスとして大きくなりすぎた結果、地域に根差して歴史を築いてきたサッカーがその地域のものではなくなり、世界中のライトファンを新規開拓するための商売道具にまでなろうとしている。

 今回の騒動にもしハッピーエンドがあるとすれば、世界中の“古き良き”『サッカーファン』と現場の選手たちが、サッカーは誰のもので、どうあるべきなのか、という本質を見つめ直し、それを大声で主張して少しでもサッカー界全体を健全な方向に向かわせるチャンスとしてこの件を活かす、というものかもしれない。

『サッカーを愛する全ての人』は、今こそ大きな声を上げるときではないだろうか。

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