①アメリカvsヨーロッパ バイエルンの示す高潔さ
降格のないスポーツ、というとアメリカのNFLが最も有名だろう。
副会長に名を連ねているユナイテッド、リバプール、アーセナルの重役たちはアメリカ人だ。チームの価値は所属する選手の価値で決まり、大型契約でスターを独占して毎年同じチームでタイトルを争うことにより、ますます一極集中化が進み、ビジネスとして大きなものになる。
今回の動向を見るためには、オイルマネーや中国系資本ではなく、アメリカ資本がサッカー界にアメリカ型の一大イベントを作ろうとしている、という側面もあることを踏まえておく必要がありそうだ。
そうなると、あるクラブに注目をする必要が出てくる。
今回、評価を上げたビッグクラブの中にいるバイエルンだ。
かつてスーパーリーグ構想が持ち上がった時にG14(ビッグクラブの連合団体)に入っていたバイエルンは、この計画に加わるのではないかと見られていたが、ドルトムントと共に正式に拒否を表明した。
バイエルンのスタンスは一貫している。2004年、ドルトムントの財政が破綻した際には融資をしてそれを助け、経営が苦しいチームがあればフレンドリーマッチに赴いてスタジアムを埋めて助ける。 バイエルンは自国リーグを文化として守ることを常に選び、だから盟主であり続けているのだ。
特権階級としての務めを果たす、という点でしっかり筋を通しているバイエルン。力関係だけではなく、トップのそういう振る舞いはブンデスリーガ全体を導いている。今シーズン、チャンピオンズリーグに出場しているブンデスリーガの4チームは共同で新型コロナウイルスによる経営難に陥ったクラブのための救済基金を設立した。
だから、バイエルン率いるドイツ勢は実際に発足するとなった時に加わらなかった。降格の無い内輪のスーパーリーグにスターを揃えて人気を集中させる、というアメリカ的な発想に対し、ヨーロッパの文化をヨーロッパのやり方で守ることを選んだのだ。
たとえ、結果的に自分たちがおいしい思いをすることになるという計算が働いていたとしても、それは関係ない。ノブレス・オブリージュ、責務を果たすことで高潔さが認められ、特権階級としての地位を保つバイエルンの姿は正当に称賛されるべきものだ。裏があろうがなかろうが、実際の行為と結果に意味がある。
バイエルンはレアルやバルセロナ、ユナイテッド、リバプール、ユベントスらよりも高潔な存在になった。レアルやバルセロナは気にも留めないだろうが、サッカーの母国を誇るイングランドが1チームも拒否せずに揃って首を縦に振ったことは、バイエルンとは対照的に恥として末代まで語り継がれることだろう。