■在韓米軍関係者の奥さんが登場
その一言で、運転手はとりあえず意識を取り戻しました。しかし、こうなると僕の方も眠っている場合ではありません。たえず声をかけ続けていなければ、いつまた居眠りを始めることか……。
まあ、「技士さま」の方も大変だったのでしょう。一日の長い乗務が終わってホッとしていたら、会社の方から急に連絡があって「釜山まで行ってくれ」と言われたのでしょう。
声をかけ続けます。バッグの中にチョコレートが入っていたので、技士さまにそれを奨めたり、とにかく再び居眠りが発生しないようにこちらも頑張ります。
声をかけ続けると言っても、そんなに韓国語のボキャブラリーがあるわけではありませんから、途中からは「大丈夫か? 寝るなよ!」と日本語です。
運転手が反日主義者だったらマズいかもしれませんが、まあ、もしそうだったら日本語で声をかけられることによって興奮するでしょうから、その方が好都合かもしれません。
バスはなんとか無事に走行を続け、紅葉の名所である茂朱(ムジュ)の辺りを通過しました。昔、僕の祖父が憲兵としてこのあたりに駐在していたという場所です。日記を読んだことがありますが、現地の人たちとは漢詩を交換したり、いろいろ交流があったようです。せっかくの紅葉の名所ですが、深夜ですから景色などまったく見えません。
そして、ようやく空が白み始めた頃、バスは無事に釜山に到着したのです。
ところが、市内に入るトンネルの前で、運転手は突然バスを路肩に止めて地図に見入っています。