■VARを適用する本当の目的

 ところが、中東の審判はファウルがあればすぐに笛を吹く。接触プレーで選手が倒れれば反則と見なされるし、反則があればプレーの流れにかかわらず、すぐに笛が吹かれてしまう。

 そのため、日本のDFはJリーグであれば流してもらえるような接触プレーですぐに反則を取られてしまうのでかなり神経を使うことになる。

 判定基準はできる限り統一すべきだ。しかし、審判によって判定基準が違うというのは国際大会では残念ながら「よくあること」と言わざるを得ない。国際試合ともなれば、チームや選手が事前に担当審判の癖についての情報を把握して、それに合わせてプレーすべきなのだ。いや、むしろそうした審判の癖を利用してFKやPKを獲得してしたたかさを身に着けるべきだろう。

 そうした“アジア基準”、“中東基準”に照らせば、たしかにあの安井のプレーは彼らの基準ならファウルを取られても仕方がないのかもしれない。

 だが、シュクララ主審はすぐそばで見ていながらノーファウルと判断してプレーを続行させたのだ(シュクララという審判は、中東の中では高いレベルにある信頼に足る審判員だ)。少なくとも、非常に微妙なプレーだったということは間違いない。

 本当の問題は2つ目の論点にある。

 つまり、神戸の“2点目”が入った場面で中盤で安井がボールを奪ったプレーにまで遡ってVARを適用すべきなのかという点だ。得点につながった以上、チェックはすべきだろう。しかし、けっして「明らかにファウルだった」というプレーでなければ、VARは介入すべきではなかったのではないだろうか。

 日本サッカー協会のサイトを見ると「ルールを知ろう!」というページがある。そして、そこではVARについてこのように説明されている。

「VARはすべての事象に介入するわけではなく、役割はあくまでもフィールドの審判員のサポートです。VARは、最良の判定を見つけようとするものではなく、『はっきりとした明白な間違い』をなくすためのシステムです。VARを担当する審判員が自身に問うことは、『その判定が正しかったのか?』ではなく、『その判定ははっきりとした明白な間違いであったのか?』です。すなわち、ほとんど全ての人が『その判定は明らかに間違っている』と思う以外は、VARがその事象に介入することはしません」

 つまり、明らかな誤審を防ぐために存在するのがVARで/-7あり、一つひとつのプレーが反則だったかどうかをすべて検証することはその目的ではないということになる。

 安井のプレーが反則であるかどうかはレフェリーの判定基準の問題なのであって、けっして「明らかに間違っている」判定ではない。従って、あの場面は本来VARを適用すべきではなかったのだ。

※第3回に続く

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