■ワールドカップ史に残るエスコバルの悲劇

 1994年にアメリカで開催されたワールドカップのグループリーグ、アメリカ戦。左から入れられたクロスに対して右にフリーのアメリカ選手がいるのを見たエスコバルは、必死に体を倒し、右足を伸ばしてボールをカットしようとした。しかしボールはゴールに向かって転がり、右からくる選手のシュートに備えてポジションを移そうと動いたGKレネ・イギータの逆をついてゴールに転がり込んでしまった。コロンビアはこの試合を1-2で落とし、最後のスイス戦は勝ったものの、グループ4位で敗退となった。

 1990年イタリア大会ではGKイギータのちょっとした油断からカメルーンに足をすくわれ、ベスト16止まりだったコロンビアだが、この大会では「優勝の可能性もある」と大きな期待を寄せられていた。早々の敗退に怒りが爆発しているに違いない祖国には帰りたくないと、多くの選手が敗退後もアメリカにしばらくとどまることにしたが、エスコバルは「ファンに説明する義務がある」と、ひとりでコロンビアに戻った。

 世界にショックを与えたのは、わずか6日後だった。7月2日の深夜、アメリカではラウンド16の初戦が行われた日に、エスコバルは自宅のあるメデジンで友人と会食し、店から出てきたところを暴漢に襲われ、射殺されたのだ。この事件には、メデジンの麻薬カルテルがからんでおり、コロンビアの敗戦により賭けで大損害を受けたことに対する腹いせによる犯行だったといううわさが当時からあったが、真相は解明されないまま今日に至っている。

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