大住良之の「この世界のコーナーエリアから」 第37回「オウンゴール物語」の画像
ボールの行方はままならない 写真/中地拓也

ボールは丸いから、プレーヤーの意思に従ってくれるはずなのである。ところが、意思をボールに伝達するには、身体を介さなければいけない。その身体が意思の通りには動いてくれないから、ボールは思ってもいない方向に飛んでいってしまう。おっと、そっちじゃない。オウンゴールだ。

■グラウンドの凸凹が

 11月の日本代表戦に参加できなかった堂安律(アルミニア・ビーレフェルト)がフル出場した11月21日のバイエル・レバークーゼン戦。相手は今季無敗。バイエルン・ミュンヘンをしのいでブンデスリーガの首位に立つ絶好調の強豪だ。圧倒的にボールを支配されたビーレフェルトだったが、結果は1-2。スコアから見ると「接戦」のようだ。だがこの試合、堂安だけでなく、ビーレフェルトの選手たちは誰も得点を記録することができなかった。3ゴールとも、レバークーゼンの選手によって記録されたのだ。そう、オウンゴールである。

 アウェーのレバークーゼンが1点をリードして迎えた後半の2分、ビーレフェルトが右から攻め込み、レバークーゼンの左サイドバック、デーリー・シンクフラーフェンがGKに向かってバックパスを送る。ビーレフェルトのFWファビアン・クロースがボールを追うが、ボールを奪おうという勢いのあるものではなく、まったく問題がないような場面に見えた。

 ゴールエリアの左外でボールを待ち構えていたGKルーカス・フラデツキーがクリアしようと右足を振り抜く。だがここで信じ難いことが起こった。ボールはフラデツキーの足に軽く触れただけで、前には飛ばず、なんと自分のゴールに転がり込んでしまったのだ。キックの直前、フラデツキーはボールから目を離し、正確に渡そうと、味方のFWを見ていた。ところがちょうどそこにグラウンドの凹凸があり、転がってきたボールが突然小さく跳ねたため起きたミスだった。

 1-1の同点。気を取り直したレバークーゼンは猛然と攻め込み、ビーレフェルトを自陣深くに押し込めたが、なかなか絶好機を生かせない。ようやく後半43分、ゴール前のこぼれ球を拾ったアレクサンダー・ドラゴビッチが正面12メートルから叩き込み、勝利をつかんだ。試合後、安堵したフラデツキーは「いちばんびっくりしたのは僕だよ。でも勝利で終わることができてよかったよ」と明るい表情で語った。

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