■12月16日/J1第33節 川崎―浦和(等々力)
飯田橋駅を出た地下鉄・南北線の車両は、武蔵小杉に向かって走っていた。水曜日の16時ということもあって、車内には仕事に追われる人ばかりだ。しかし、白金台を過ぎて目黒駅に着くと、「14」とプリントされたブルーのユニフォームを着た“中村憲剛”が何人か乗り込んできた。そして、その数は徐々に増え、武蔵小杉駅では何人もの中村憲剛と電車を降りた。
武蔵小杉駅前には、集合したかのようにたくさんの中村憲剛がいて、誰もが、今から目の前で繰り広げられる光景を焼き付けようとしていた。ユニフォームのエンブレムで泳ぐイルカも、寂しげではなく、どこか誇らしげだ。
中村憲剛が川崎に入団したのは、2003年のこと。それから18年間、川崎のユニフォームを着てプレーした。最初の舞台は、J1ではなくJ2。それも、等々力ではなくアウェイの広島戦(J2第1節=3月15日)でJリーグ初出場を果たした。87分から途中出場した「26番」のわずかな数分間、しかし、Jリーグ史に刻まれる歴史的な瞬間を、ビッグアーチにいた1万2426人は見届けた。