今季のJリーグを70試合以上取材したカメラマンが、取材した試合で選んだJ1ベストイレブン(J1は全チーム複数試合取材済み)。
まだ試合は残っているので、是非彼らの素晴らしいプレーを見ていただければ幸いだ。
ポジションはGK、DF、MF、FWで分けたが、Jリーグのベストイレブン選出方法と同じように、フォーメーションの図にした時のポジションや、試合をすることを想定したチームバランスについては考慮していない。
選手名(チーム/取材した今季の出場試合数)
序盤は田中碧がアンカーを務め、守田はスタメンではなかったが、8月になって出番を掴むと、そこからはアンカーのポジションを譲らなかった。ただ単に守備で川崎を支えただけではなく、攻撃のキーマンでもあった。前線を押し上げてハーフコートマッチの状態で試合を支配する際には攻撃の底として作り直しの起点となり、人口密度が上がって前が詰まった時には意外な浮き球や自らの攻め上がり、あるいはミドルシュートで打開を狙った。
インサイドハーフに回った田中碧の方が、インパクトのあるプレーで印象に残りやすかったが、屋台骨としてチームを支え続けたという点で守田の存在は大きかった。
大分戦では谷口彰吾の退場によってセンターバックを務めることになったが、人数が少ない中でも前線を押し上げる役割を果たした。ACLを並行して戦う来季は、複数ポジション(昨年はサイドバックの経験もある)で戦術を遂行できるその役割はますます大きくなる。
下位に沈んだ神戸だが、山口がいたからこの順位で済んだ、と思えるほど様々な役割を一手に担い、試合を成立させていた。相手ボールになったところを早めに潰したり、縦を切ってペースを落とさせたり、球際の強さを見せてインターセプトしたりと、これまでと同じように守備で貢献した。しかも警告は0だ(最終節を残している現時点で)。それだけではなく、攻撃でも存在感を見せた。黒子としてパスを左右に捌くだけではなく、スペースが空けばするすると危険なエリアに侵入していった。
山口のことを、ボランチでハードワークする守備の人、と思っている人は多いが、インサイドハーフやシャドーのポジションで攻撃センスを活かせる時の方が輝いている。
神戸最大の武器であるイニエスタに自由を与えるためにどうすれば良いか、となった時に、山口が後方で守備を担う、というのは当たり前のように考えられることだが、昨年の後半戦からトルステン・フィンク監督はあえて前のポジションで山口をプレーさせることでマークの分散を狙った。今年もそれは継続され、攻撃面では上手くいく場面が多かったが、個人任せになりがちな守備の仕方でありながらなかなかメンバーが揃わなかったこともあり、安定して勝利することができずに監督は退任してしまった。その後のリーグ戦も、結局は立て直せないまま悪い形で終わってしまったが、山口個人としては結果が出ないチームに対して苦言を呈する役割を自ら買って出て若手の主張と成長を促し、戦術的にも精神的にも神戸の柱となっていた。
来季、新しく守備を構築するところからスタートするはずだが、山口がボランチの位置に戻ってしまうのはもったいない、と感じる年だった。
スピードで抜き去ったり、細かいフェイントで駆け引きをしたりするわけではなく、一見クラシカルなタイプの選手だが、ロティーナ監督が攻撃の選手で最も重宝している(リーグ戦では30節終了時点で29試合に先発)ことからわかるように、替えの利かない選手だ。その武器は、わかっていても引っかかってしまう切り返しで、それでディフェンダーを外して冷静にアシストをする。終盤でも落ちない運動量も備えている。
昨年J2のモンテディオ山形でデビューし、いきなりリーグ戦全42試合に出場してセレッソにステップアップを果たし、今年もフル稼働。どんなチームの監督も欲するであろう選手だ。
●MF 三笘薫(川崎フロンターレ/7試合)
MVP候補に挙がるほど、ルーキーイヤーでありながら衝撃的なプレーを見せ続けた。間合いとクイックで面白いほど相手を抜いていくぬるぬる動くドリブルだけでなく、スペースに入り込んでの得点、ロングボールの競り合い、球離れの良さなど、単なるドリブラーの枠に収まらないプレーぶりだった。
途中出場で、足が止まった相手に無双する、というパターンも多かったが、10月のFC東京戦のように大一番でスタメンで起用されても試合終了まで運動量が落ちずに同じように仕掛け続けられるスタミナもあり、対策されてもそれを上回ってみせた。今年の活躍がフロックではないのは明らかで、早くも海外でのプレーを期待する声も出ているが、できればもう少しJの舞台で見たい。ボールを持っただけでスタジアムの空気が変わる、今最もわくわくする選手だ。
日本代表の国内での活動ができない年になったことで、サムライブルーのユニフォームを纏うことはなかったが、代表への招集でチームを離れることなく川崎でのプレーに専念出来たこともプラスに働いたかもしれない。
スタメン出場が8試合(29節終了時)と少ないことで実際のMVPを受賞できるかはわからないが、2020年を象徴する選手であることは間違いない。
●MF 家長昭博(川崎フロンターレ/6試合)
圧倒的な成績で優勝した川崎の中で、最も替えの利かない存在だった。個人的には、優勝のかかった大分戦でその名前が無かった瞬間に、これはもしかして決まらないパターンなのでは?と思ってしまったほど、その存在は大きかった。
山根視来との連携で右サイドを川崎のものにしたことや、強靭なフィジカルを活かしたボールキープやディフェンスで素晴らしいパフォーマンスを続けたことはもちろんだが、真骨頂はゆったりとした時間を作ることだ。
歩いているかのような余裕を感じさせるプレーで試合のペースを変え、味方を落ち着かせ、攻撃を仕切り直す。そして、そのゆったりとした時間から急にスイッチを入れる。相手は、ただでさえフィジカルとテクニックに優れる家長から普通にボールを奪うことは出来ず、人数をかけて強引にボールを奪いに行って守備のバランスを崩すと、家長自身にかわされたりオーバーラップした山根をフリーにしたりしてピンチを迎えることになる。かといってボールを持たせておけば、川崎の選手たちが自由に動く時間を与え、単純なクロスボールがシュートに繋がってしまったり、ペナルティーエリア手前のスペースを空けられてミドルシュートに襲われたりと、対応の仕方に悩むことになる。
2018年にMVPを獲得しているが、今年はそれよりもハイパフォーマンスだった。川崎の攻撃の流れを作っているだけではなく、試合そのものを支配している。
その他の候補としては、田中碧(川崎フロンターレ)以外に、守備戦術の中で輝いたレアンドロ・デサバト(セレッソ大阪)や島川俊郎(大分トリニータ)、横浜FCの躍進に大きく貢献した瀬古樹と松尾佑介、掴みどころのないプレーで攻撃をコントロールした江坂任(柏レイソル)や清武弘嗣(セレッソ大阪)、不敗神話を築いた田中達也(大分トリニータ)らが挙がった。