■フランス代表だったアンリのような少年
今世紀にはいって、欧州では「エメルソン型」とは対照的な選手が現れた。女子チームの選手が「私のほうが先」と主張するフランス代表のティエリ・アンリである。彼はストッキングの折り返し部分をそのまま上に伸ばしてひざ上まで上げてプレーした。陸上競技の100メートル走のスタートラインに立って手を振っていてもおかしくないようなスマートな体型をしたアンリが、その長いすねからさらにひざ上までストッキングを上げると、やたら足が長く、かっこよく見えた。
実は私は、その30年近くも前に同じスタイルを見た記憶があった。大学生時代、少年サッカーのコーチをしていたころの話である。ある日、1年生の少年が入団してきた。買ったばかりのユニホーム姿はかわいかったが、彼はストッキングをひざ上まで伸ばしていたのだ。サッカーのストッキングをどうはくのか知らない母親にはかせてもらったのかもしれない。少しおかしかったが、そのままにさせた。彼は数カ月間そのスタイルで練習をしていた。
アンリを見て思い出したのはその少年だったが、「プレーしにくいだろうな」と思うだけで、このスタイルが定着するとは想像もしていなかった。しかしいまでは、多くの選手が「アンリ型」でプレーしている。名前は挙げないが、ある小柄なJリーグの選手は、ストッキングを目いっぱい引っ張り上げた結果、太ももの半ば以上に達してショーツの中に隠れてしまい、外からは足の肌がまったく見えなくなってしまっている。試合前、その姿を見て、私は少しニヤッとする。
ひざ下で折り返す派、ひざ上まで上げる派はいても、私のチームの選手たちは、試合だけでなく、練習でも、きちんとすね当てをつけ、ストッキングを上げてプレーする。私がプレーしていた時代には、練習ではすね当てはつけず、ストッキングも下ろしているのが普通だった。ケガを予防するだけでなく、できるだけ試合のときと同じ条件で練習もする――。こんなところにも、日本サッカーの「成長」があるように思うのである。