大住良之の「この世界のコーナーエリアから」 第27回「ストッキングか、ソックスか」の画像
きちんとひざ下まで上がったストッキング姿は美しい。(c)K.Imai
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あなたはひざ上派、それともひざ下派? スカートの丈ではない。ストッキングのはき方にまで、自分の流儀があるのがサッカー選手なのである。かつてルーズソックスが流行ったころ、指さして「レフェリーに注意されるぞ」と迷惑なジョークを飛ばすのもサッカー選手の常だった(早野さんだったかもしれないが――)。

■ストッキングは必ずはかねばならない

「オースミさん、その言い方はショーワだよ」

 女子チームの選手に笑われてしまった。「ストッキング」の話をしていたときだ。最近は「ソックス」というのだという。選手たちを見ると、それをひざの上まで上げてプレーしている者が何人もいる。プレーしにくくはないかと聞くと、「ぜ~んぜん!」と言う。あるベテラン選手は、「私はアンリより先だからね!」。さすがに、「14番はクライフより先」と言い張る監督のもとで長年プレーしてきただけのことはある。

「ソックス」は、ルール第4条「競技者の用具」に規定がある。プレーヤーが身につけなければならない基本的な用具として、「シャツ」、「ショーツ」、「すね当て」、「靴」とともに挙げられている。調べてみると、現在のルールブック(正式には『サッカー競技規則』という)ではソックス(英語版はsocks)だが、2014/15年版のルールブックまではストッキング(stockings)となっていた。用語の変更は2015年、平成27年のことである。私に対する女子チーム選手の嘲笑を、断固取り消させなければならない。自分だって「ショーワ」のくせに……。

「ストッキング」は19世紀半ばのサッカー誕生のころからあった用具だ。当時はショートパンツではなく、「ニッカーボッカー」と呼ばれるひざ下のところでくくられたズボンをはいていたが、ストッキングは全員がしっかりつけていた。間もなくひざ上までの「ショーツ」をはくようになっても、ストッキングは残された。

 ストッキングとすね当ては、サッカーの必需品である。サッカーとラグビーがたもとを分かつきっかけとなったのは「相手のすねをけっていいかどうか」の議論で、「禁止派」がフットボール(サッカー)協会をつくり、「容認派」がそのしばらく後にラグビーユニオンを結成した。とはいっても、サッカーでも、プレーの行きがかり上、相手のすねをけってしまうことは日常茶飯事だった。だからストッキングとすね当ては欠かせなかった。ファウルを取ってもらっても、すねをけられた痛さが消えるわけではない。

 ただ余談になるが(この連載は余談ばかりだが……)、現代では、サッカー選手がもれなくすね当てをしているのに対し、どうも、ラグビーの選手はしていないようだ。昨年のラグビー・ワールドカップのとき、プレーそっちのけでそんなことばかり見ていたのだが、明らかにすね当てをしているとわかる選手は見当たらなかった。

 英語ではホース(hose)とも言う。私の家の庭の広大な芝生(そんなものどこにある!?)に水を撒くときに用いる「ホース」と同じ言葉だ。フランス語では「バ(bas)」これは「下」という意味だ。さらにスペイン語では「メディアス(medias)」。これは「半分」という意味だ。左右で1足になるからだろうか。ホースような形状で、体の下部にあり、対になったもの。ストッキングのイメージがかなりはっきりしたのではないか――。

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