■メンドーサ、コルドバ、ロサリオ

 翌日からブラジルのリオデジャネイロで取材し、アルゼンチンに戻ってからメンドーサ、コルドバ、ロサリオと会場都市を回ってブエノスアイレスに戻ってきたのが2週間後、私たちは再びリバープレート・スタジアムを訪れた。ところが入り口で「許可証」を見せると、門番は「許可された日付はきょうではない。残念だが取材を許すことはできない」と言う。私が「許可証の日付どおり2週間前に来たのだが、そのときは霧が濃く、写真を撮ることができなかった。そのとき案内してくれたセニョール○○が『また来い』と言ってくれた。5分間だけでいいから撮らせてくれ」と言っても、相手は私と同年代ほどの若者ながら頭が固そうで、取り合ってくれない。

 翌日には次の仕事のためニューヨークに行かなければならない富越さんは、「カネをつかませたらどうだろう」と言うが、アルゼンチン人は誇り高い民族なので、逆に怒らせてしまうかもしれない。そのとき浮かんだのが、「天才寿里」のテキストだった。

 何ごとだと寄ってきた仲間に、門番が説明している。何を言っているかよくわからなかったが、「シンコ・ミヌートス(5分間)」という単語が聞こえた。

「そう、シンコ・ミヌートスだけだ。お願いします」。そう言うと、ふたりは苦笑いしながらまた話している。だが私に向き直った門番が言ったのは、最初と同じ言葉だった。「日付が違うからな……」。その言葉尻を、私は逃さなかった。うん、うんとうなずいた後に、「ペロ、ポルファボール!」。彼の左ひじをつかみ、しつこく、「ポルファボール」を繰り返した。そしてそう言った自分自身がいちばん驚いた。これが通じたのだ。

「じゃあ、5分間だけだぞ」

「グラシアス」を繰り返し、彼ら2人とともにスタジアム内に。そして「上へ、上へ」と言いながらスタンドの最上部まで上がってしまった。私が「本当にきれいなスタジアムだ」とほめまくって時間をかせぐ間、富越カメラマンは神業のような速さで写真を撮りまくっている。2人がリバープレート・クラブの職員だとわかると、「偉大なクラブだ」などとほめ殺しにし、赤と白に塗り分けられた観客席を「世界で最も美しい色だ」などと歯が浮くようなことを言っているうちに、5分間どころか、30分間以上もあちこちを案内してくれたのである。

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