■深夜の新潟駅に待つ女性たち

 この大会、日本で私が体験した最も印象的なホスピタリティーは、6月15日の深夜、ラウンド16のデンマーク×イングランド(午後8時半キックオフ)の試合終了後に新潟駅から東京駅に向けて出された新幹線だった。翌日に大分でスウェーデン×セネガル(午後3時半キックオフ)を取材するつもりだった。しかし翌朝に新潟から大分に行く飛行便はなかった。朝いちばんに羽田を出る大分行きに乗るためには、どうしても夜が明ける前に東京まで帰り着かなければならなかった。JR東日本が「試合終了の1時間半後から10分間隔で11本の東京行きを走らせる」と発表したのは、大会が近づいてからだった。

 新潟のスタジアムで仕事を終えたのは12時半を回っていただろう。私はジャーナリスト仲間の田村修一さんとともに新潟駅に向かった。タクシーが着いたのは南口(新幹線口)で、何ごともなく改札を抜けることができた。後日聞いた話では、この駅の正門である「万代口」には数千人が並ばされ、混乱が起きないように1列車分ずつ人数を数えて入場させていたという。

 ホームに昇る階段の横に数十人の女性が並んでいた。何だろうと注目すると、手にもったレジ袋のようなものをひとつずつ乗客に手渡している。中には新潟各地の観光パンフレットとともに、紙パック入りのお茶と、カロリーメイトが1箱はいっていた。深夜の新潟駅は売店もすべて店じまいしていて、食料品を手に入れることはできない。お腹をすかせたまま東京に帰すことはできないという、細やかな心づかいだった。

 全員がゆったりと座った列車が動きだして30分もすると、車内はすっかり静かになった。みんな寝込んでしまったのだ。だが気づくと、30分おきぐらいの間隔でふたり一組になった車掌さんが車内を歩いている。通常なら2時間の新潟―東京間だが、この特別列車は騒音対策のため3時間かけて走る。熟睡する乗客が置き引きなどの被害にあわないよう、警備に回ってくれているのだ。朝4時過ぎに東京駅に着くと、その到着時間に合わせて出る山の手線が、内回り、外回りともに待っていた。詳細に計画を煮詰め、いったん決めたら計画どおりに実施する――。これが日本のホスピタリティーというものなのだろう。

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