■大量失点をしないための処方箋

 ではどうしたら「大量失点」の「結晶化」あるいは「化学変化」を止めることができるのだろうか。相手の攻撃力やメンタリティーなどを変えることはできない。だが大量失点の「結晶化」や「化学変化」は相手だけでなく自らの要素が重なった結果であるという理解があれば、自らの要素を変えることでその進行を食い止めることができるということが容易にわかるはずだ。

「2点差」が大きな分岐点だ。1点差で試合終了までの時間がある状況なら、落ち着いてプランどおりの試合を進めることができる。しかし2点差になると、選手たちの心理に微妙なばらつきができる。ここでしっかり意思統一し、何をすべきか確認しておけば、2点差のまま時間を経過させることができる。2点差で1点返せば1点差。1点差のスコアは、ほんのわずかなことで「勝ち点」が大きく変動することを意味し、サッカーの心理においてはほぼイーブンと見てよい。

 バルセロナは前半27分に3点目を決められた直後にもGKとDFのパス交換で大きなミスが出て決定的なピンチを迎えるなど、「なんとなく」プレーしてしまった。相手がバイエルンであることを考え、短時間でもセーフティーなサッカーに切り換えていれば、仮に前半が1-3のまま終わったとしても、後半巻き返すチャンスはいくらもあったはずだ。

 2014年のブラジルも同様である。2点目を失ったときに全員がまるで「痴呆状態」のようになってしまったのは、まったくブラジルらしくなかった。そこで現実に目を開き「ここが切所(せっしょ)」と意思統一をしていれば、1点を返し、追いついて、最後にはきわどい勝負に持ち込むことができたはずだ。

 ハーフタイムでは間に合わない。「大量失点」を止めることができるのは、監督ではなく、ピッチ内にいる選手たちだ。2019シーズンのJ1全306試合で1チームが5点以上を取ったのは、わずか9回、1.5%の割合である。しかし大量失点が与えるダメージはあまりに大きい。数十試合でいちどの出来事であるとしても、「大量得点のケミストリー」を理解し、対策を頭に入れておくことは、プロフェッショナルとして軽視できないことではないだろうか。

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