ホームスタジアムで応援するクラブのふがいない戦いは見たくない。選手だって監督だって、そんな姿は見せたくないはずだ。ところが今シーズンのJ1リーグでは、ホームチームが格下クラブにすら勝てない試合が続出している。いったい何が起きているのか。サポーターの声は届いているのか。
■味スタで、FC東京がサガン鳥栖に敗れた
8月1日と2日に行われたJリーグ(J1)の第8節で、珍しい記録がつくられた。この節の全9試合のうち、8試合でアウェーチームが勝利を収めたのだ。ホームで負けなかったのは、清水エスパルスと1-1で引き分けた浦和レッズだけだった。さぞかし、サッカーくじ(toto)は大荒れだっただろう。
この節、上位チームがそろってアウェーで戦ったわけではない。前節までの順位で言えば、9試合のうち5試合で上位のチームがホームで戦っているのである。たとえば前節(第7節)終了時で4位だったFC東京は、ホームの味スタにサガン鳥栖を迎えた。鳥栖は今季まだ勝利がなく、4分け3敗、得点わずか2で15位。だが後半立て続けに失点し、2-3で敗れて鳥栖に今季初勝利を献上した。
ホームチームの0勝1分け8敗というのは非常に珍しいが、従来から、Jリーグではホームチームが強いわけではないという印象がある。しかし1993年から今季第8節までの記録を調べると、7727試合中、ホームチームの勝利は3552試合。約46%にあたる。これは、2019/20シーズンの欧州のトップリーグとほぼ同じ数字だ。イングランドのプレミアリーグは約45%、スペインのラ・リーガは約46%。そしてドイツのブンデスリーガは約40%と、Jリーグよりホームの勝率が少し低い。
Jリーグには1999年まで引き分けがなく(延長Vゴール制+PK戦)、2004年まではVゴール制の延長戦が行われていたから、この数字は厳密ではない。とはいっても、数字が示すのは、Jリーグが他リーグと比較して極端にホームの勝率が低いリーグとはいえないということだ。ちなみに、昨シーズン、2019年のJ1では、全306試合中ホームチームが128試合で勝利を収め、約42%だった。
だが今季は、延期になった第7節の「サンフレッチェ広島×名古屋グランパス」を除く8節、全71試合で、ホームチームの勝利は22試合、約31%に過ぎない。かといって引き分けが多いかといえば、16試合に過ぎず、ホームチームの敗戦が33試合もあるのだ。
「勝利に3、引き分けに1」という勝ち点方式は、引き分けの価値を大きく落とした。引き分けを「負けに等しい」という印象をもつケースも多い。伝統的であり、非常に合理的だった「勝利に2、引き分けに1」が世界的に「3-1」に改められたのは1990年代の半ば。当時のFIFA事務局長ジョゼフ・ブラッターの提案であり、引き分け狙いの消極的なサッカーをなくし、サッカーをより魅力あるものとしようという狙いだった。
これによって、「勝つか引き分けて得る『勝ち点』」より「負けるか引き分けて失う『負け点(?)』」のほうが重くなった。「勝ち点」は、勝てば「3」、引き分ければ「1」だが、「負け点」は負ければ「3」、引き分けなら「2」となるからだ。この方式で今季のJリーグのホームチームの「勝ち点率(全勝で得られる勝ち点に対する、実際に得た勝ち点の割合)」を計算すると、約38%ということになる。
「勝ち点率」は、昨年のJリーグが約50%、2019/20シーズンのプレミアリーグが約53%、ラ・リーガが55%、ブンデスリーガが約48%という数字と比較すると、今季のJリーグがいかにホームでふがいないかがわかる。ではなぜこのようなことが起こっているのだろうか。