■築き上げてきたサッカーを大事にしたポステコグルー監督
大逆転劇を演出した富山の安達監督も、結果にはつなげられなかった柏のネルシーニョ監督も、どちらも選手交代とシステム変更を使って流れを戻そうとした。だが、「自分たちの戦い方」を守ることを重要視し、選手交代によるシステム変更をしようとしない監督もいる。代表的な例が、昨年の王者、横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督だ。
両サイドバックがセントラルMFの位置に上がり、さらにバイタルエリアにまで進入してラストパスを通すなど超攻撃的スタイルを横浜FMに植え付けた名指揮官だ。それだけに、ポステコグルー監督は第4節のゲームでFC東京にリードを許した後も自分たちのサッカーを崩そうとはしなかった。
この試合は昨年最終節の直接対決で優勝争いをしたのと同じ顔合わせだったが、非常にスピード感のある試合だった。高速パスを回し、アウトオブプレーになってもすぐにプレーを再開する横浜FMのテンポの速さに対して、FC東京は文字通りの「走る速さ」である。前線にディエゴ・オリヴェイラ、永井謙佑、田川亨介というスピードスターを並べたのだ。ボール支配率で上回る横浜FMが2人のストッパーを除いて全員で攻め込んでくるので横浜FM陣内には広大なスペースができる。そこに縦パスを通して俊足FWを走らせようというのが狙いだった。
実際、何度も繰り広げられる俊足FW陣と横浜FMのチアゴ・マルチンスのスピード競走は見ものだった。
そして、狙いは見事に当たった。
14分、橋本拳人のくさびのパスからつないで室屋成のアーリークロスに走り込んだ田川が倒されてPKを獲得して同点(17分、ディエゴ・オリヴェイラのゴール)。さらに、前半終了間際にはよく似た形から獲得したFKを、負傷した田川に代わって入っていたレアンドロが蹴り込んでFC東京が逆転して前半を終了した。
後半に入って、ポステコグルー監督は63分に3人を同時に交代させて反撃を試みたが、システム変更などはせず、前線の3人を入れ替えるだけだった。ポステコグルー監督は、自分たちが築き上げてきたサッカーを大事にすることを選択したのだろう。