■名将ネルシーニョを上回った、横浜FCの策士・下平監督

 しかし、当然のことながら、5人の交代枠を使えばいつでも流れを変えられるというわけではない。

 同じように選手交代とシステム変更を使って流れを引き戻そうと試みたのが、横浜FCと対戦した柏レイソルのネルシーニョ監督だった(J1第3節)。“昇格組”同士の対戦であり、また横浜FCの下平隆宏監督にとって“古巣”柏との対戦という意味でも注目の試合だった。

 横浜FCは選手間の距離をしっかり保ってピッチ全面に守備の網を敷いて相手にスペースを与えない組織的な試合をした。ポゼッションの能力では柏の方が明らかに上だったが、横浜FCの守備組織の前にパスコースを見つけることができず、後方あるいは中盤でボールを回す時間が長くなってしまった。両翼で高い位置をキープする横浜FCの両ウィングバックにサイドハーフが押し込まれたことも、柏の重心が下がり過ぎた原因だった。

 そして、横浜FCはピッチ全面でプレッシャーをかけ、ボールを回す柏の選手たちにチャレンジしてきた。守備の組織が堅固だから前の選手も思い切ってプレスをかけられるのだ。21分の先制点もこの形から生まれたものだった。相手陣内の深い位置でMFの瀬古樹がボールを奪い、松浦拓弥が縦パスを入れ、走り込んだ斉藤光毅がワンタッチで決めたのだ。

 リードされた柏のネルシーニョ監督は28分に最初の交代を使って3-5-2に変更し、前半終了間際には呉屋大翔のヘディングで同点とすることに成功した。

 ネルシーニョは選手交代やシステム変更がうまい監督だ。

 1993年にJリーグが開幕した当時、日本にも優れた選手は多数いたが、戦術レベルは今ほど高くはなかった。そんな時代に、ヴェルディ川崎のコーチ・監督だったネルシーニョは、前半の早い時間帯から選手交代やシステム変更を使って勝利を手繰り寄せる采配の妙を見せてくれた。

 そんなネルシーニョのことだから、5人交代制を利用して試合を動かそうとするのは当然のことだ。

 後半に入ると、ネルシーニョはさらにシステムをダイヤモンド型中盤の4-4-2に変更した。ところが、47分にゴール前で短くつないだ横浜FCが、最後は松浦が押し込んで再びリードを奪う。そして、その後もネルシーニョ監督は再び選手交代を使ってリズムを取り戻そうとしたのだが、横浜FCの組織の前に効果は発揮できず、85分にはFKから横浜FCにダメ押し点を決められてしまった。

 柏の選手交代やシステム変更に対して、横浜FCはたとえばウィングバックの位置などを微調整するだけでしっかりと受け止めて勝利した。横浜FCは51分にMFマギーニョが負傷して交代カードを1枚使ったが、あとの3人の交代はすべて79分以降のもの。「しっかりとしたコンセプトを持って戦えれば、相手がシステム変更を駆使してきてもそのままでも対応が可能なのだ」ということを証明してみせた。

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