■どんな失点でも失点は失点
Q:「子どものときから違うのではないですか?」
「日本の子どもは、良く言えば言われたことを的確にこなそうと努力します。しかしドイツの子どもたちには、どんなに年少でも、すでに自分のオリジナリティーというものをもっているので、言われたことをうのみにするのではなく、自分なりに考えて行動する。サッカー以前の社会や家庭のあり方から違っているのかもしれません」
「ドイツでU-17やU-19を指導したときには、選手たちは、ひとりの大人同士として、あるいはひとりの人間同士として監督やコーチと意見交換をしていました。監督やコーチの顔色をうかがって子どもたちが話すということなど、ドイツではありえません。日本では、監督やコーチが絶対だったり、監督に好かれようとするところが先にあって、自分の本意ではないことをやり続けている子どもが多いのではないでしょうか」
「おもしろい違いがあります。監督やコーチと話すとき、日本の選手は『監督』とか『コーチ』とか、あるいは『○○さん』などと言いますね。ドイツでは監督に対して『ドゥ』という言い方をするんです。日本語でいえば『おまえ』というようなニュアンスですね。ていねいに『ズィー(あなた)』と言う選手など、ほとんどいません。監督に『これこれしていいですか』などとはけっして言わず、『おーい、監督、これやるけどいい?』とか、『おれはきょうやらないよ』『なんでやんなきゃいけないの』というような感じですね」
Q:「本当ですか? それは驚きです」
「1点リードしていて追いつかれたとき、日本ではよく『失点の仕方』ということを言います。しかし僕はどんな失点でも失点は失点、それ以上ではないと思っています。失点の仕方が悪かったら、1.5点を取られて逆転されるというわけではないでしょう。追いつかれたときにどのようなメンタリティーでプレーを続けるかということを明確にしておくことが大切だと思います。ドイツでは、監督たちはよくこのようなことを言います。『最終的な結果についての責任は監督の私が全て負う。しかしピッチ上の行動については、個々の選手の責任になる』」
「つまり、ドイツの選手たちは、何かを押しつけられるのではなく、自分自身で判断し、能動的に動いたときにどうなるのかというメンタリティーをもっているのです。日本の選手たちのコメントを読むと、『監督はこう言ったからそうやったけど、オレはそうは思わなかったんだよ』などというものをときどき見ます。しかし僕がやってきたサッカーでは、選手間ではそんな言葉は絶対にありません」
「たとえば前線からのプレスで行くべきか待つべきか。基本的には、練習時に、どこでアクションを起こし、どこが取りどころか、この状況になったらダメだとか、しっかり伝え、選手たちに理解してもらいます。しかし試合のなかで自分たちで『行ける』と判断したら、僕の意見ではなく、自分たちの意見でやれ、というのが僕のスタイルです。そのなかで修正すべきポジショニングなどがあればそれを注意するのが僕の仕事です」
Q:「そうした指導者からの働きかけで大事なのは何ですか?」
「言葉の力だと思います。同じことを表現しても、言葉の選び方ひとつで、受け取り方、その言葉を受けてのアクションはまったく違ってきます。たとえば『4バック』です。『うしろにいる』というイメージですね。しかし最近のドイツでは、『4人の鎖』という表現をします。4人が繋がれて相手の攻撃をコントロールするというイメージです。そうなると、オーバーラップというのは、リスクを冒してその『鎖』を断ち切り、前に出ていくということになります。味方の選手は『鎖を切ってあいつが出て行った』という危機感をもつので、自然にカバーリングが速くなるということにつながります。それが言葉の力です」
「『チャレンジ&カバー』は守備の鉄則として多くの日本のコーチが使いますが、現在のドイツでは『チャレンジ&アタック』という言い方をし、僕も使います。僕は『プレーの99パーセントが攻撃』と表現するのですが、それは、相手がボールをもっていても、それを取り返そうという動きは『守備』ではなく『攻撃』と意識させたいからです。1パーセントの守備は、ゴールに入れさせないということです。相手がシュートを打とうとしたときに寄せる、当たりに行く、あるいはセーブするといったプレーです」
「『チャレンジ&カバー』だと、カバーする選手は下がるだけです。『チャレンジ&アタック』では、チャレンジを外されたら、次の選手がアタックに行く。同じことのように聞こえるかもしれませんが、言葉を変えることで積極性やメンタリティーが変わってきます」
「もうひとつ、『スライド』という言葉もよく使われますが、ドイツでは『フェアシーベン』という言葉を使います。直訳すれば『動かす、ずらす』というような意味なのですが、イメージとしては車のフロントグラスに雨がついたときにワイパーでだっと落とす、そんな感じなのです。この言葉だと勢いがある。『スライド』だとボールを奪い取る力は出ないと思います。これも言葉の力です」