■徹底的に積極的なメンタリティー
Q:「片山さんは、2018年ワールドカップのベルギー戦についてどう思われましたか?」
「あの負け方はメンタルしかないと感じました」
「ドイツでU-17やU-19のチームを指導し、その後日本に戻って鹿屋体育大学のコーチになりました。U-19と同じ年代なので、ドイツ人と日本人の違いがはっきりわかりました。鹿屋体育大学は、自分のリズムでプレーできているときにはものすごい力を発揮しました。しかし指導を始めたころは、何かの拍子にリズムが崩れたり、かみ合わなくなると、まったく力を発揮できませんでした。一方、ドイツのU-19の選手たちには、何かがかみ合わなくても、たとえ先に失点してしまっても、常に自分たちのサッカーをやり続けるメンタルの強さがありました」
「ベルギー戦では、絶対に勝つというメンタルで疑いなくプレーを続けられた選手があまりいなかったのではないでしょうか。決勝点を喫したカウンターは単なるとどめで、メンタルの問題は1点を返されたときから出ていたように感じました。よく昔は、『2点差のリードがいちばん危ない』と言われたようですが、いまのドイツではそんなことは誰も言いません。1点差なら有利、2点差なら圧倒的と思っています。ハーフタイムで1-0なら、監督はこう言うでしょう。『勝っているのだから、あわてず、自信をもってプレーを続けること。2点目、3点目を取って相手を叩きつぶせ』」
Q:「バイエルンがまさにそうですね」
「民族性もあるかもしれません。ドイツは回りを強国で囲まれていて、1つやっつけても油断はできないし、満足もしない。日本も、織田信長や徳川家康の時代だったら、サッカーが強かったかもしれませんが(笑)。世界と対抗するために日本のサッカーがメンタリティーの面で変える必要があるとしたら、『守る』という価値観ではないかと思います。1点を取って勝ちを守るのではなく、1点取ったら2点目、3点目を取るというメンタルをもたなければならない。言い方はひどいかもしれませんが、相手が二度とサッカーなどやりたくないと思うほど叩きのめすという意識を植えつける必要があると思います」
「僕が日本のサッカーですごく面白いと思うのは、たとえば『ガンバさん』というような表現です。対戦相手をリスペクトしなければならないのは当然です。しかしドイツでは、『それは試合が終わってから』と言います。もちろん、試合中に相手選手がひどいケガをしたら、そのときには仲間として助けるのですが、通常は、試合前や試合中は『敵』だし、叩きのめす相手としか考えません。だからバイエルンはリードしたら次々とカウンターを繰り出して6点でも7点でも取ってしまうし、ドイツ代表もブラジルのファンの心情などお構いなしに7-1で勝って胸を張っていました」
「バイエルンのようなメンタリティーを考えるとき、もうひとつ重要なのは、練習のなかで選手をどう位置づけているかということです。絶対的なレギュラーなどいないということを選手たちに突きつけ続けないといけない。リードしたからといって足を止めるような選手は、次は絶対に使わない。やれることを100パーセント出し切って60分間しかもたなくてもいいが、力を抜きながら90分間もたせようというような態度は認めない。徹底的に積極的にプレーさせる。試合に集中させるのであって、勝利に集中させるのではないということではないでしょうか」