■監督と選手は対等な立場

 Q:「『32分割』がポジショニングという戦術能力を高めるのですね」

「しかしこうした戦術の前に大事なことがあります。『誰のせい』だとか、かみ合わないときに味方選手のせいにするなど、人間ですから、どうしてもそうした心理が働きます。しかし僕のチームではネガティブな発信は禁止です。すべてポジティブに『いいよ、行け』『だいじょうぶ、おれがカバーしているから』などの発信をうながします。『なんでおさまらないんだよ』などと言ってはならない。サッカーはミスのスポーツなんだから。大切なのは、おさまらなかった後の状況がどうなっているか、それに対応してチームとして動けているかなのです」

「松江FCにいたときにすごいなと思ったのは、練習が終わると、キャプテンがみんなを集めてボードの前で話し合いをするんです。ああじゃないか、こうじゃないか、いや、片さんが言っているのはこういうことだろうなんてディスカッションをしている。僕は後ろのほうから見ているだけ。『このチームは強くなるな』と感じました」

 Q:「きょうのお話は、選手のメンタル改善には、指導者の関わりが非常に重要な役割を果たすということだったと思います」

「日本のサッカー選手の課題をまとめると、能動的にすべて自己責任で行動するということが欠けていることだと思います。僕がそうでしたが、自分で考えて行動すると、学校の先生や監督から『おまえは自分勝手だ』と怒られました。日本人には日本人の良さがあり、日本の文化にはすばらしい価値があってそれを変える必要などないと思うのですが、自己責任で行動することを『指導者』と言われる人びとが抑えつけてしまうのは大きな問題です」

「ドイツでは、『指導するということは、教えるということだけではない。選手とともに学んで歩むということだ』と教えられました。監督は絶対ではないし、逆に選手も絶対ではない。対等な立場で目標に向かっていき、そのなかで、たまたまリーダーとなったのが監督ということになります」

「監督が絶対者のように振る舞っているチームでは、『なんであいつを使うんだよ』とか、『おれはまたここかよ』など、不満が渦巻いています。松江FCでは、選手同士も監督に対しても誰も文句を言わず、誰が出ても同じ方向を向いてプレーしていました。足が速いだけの選手が出れば、全員が『行け!』と叫ぶなど、目標に向かってひたすら走っていました。日本のサッカーが、クラブから代表までそんなチームになったら、いますぐにでもワールドカップベスト4は行けると、僕は思っています」

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