■32分割でのポジショニング

 Q:「非常に強い相手とプレーするときにも、『99パーセント攻撃』ですか?」

「そういう相手に対してこそ、積極的なメンタリティーが必要になります。松江FCで監督を務めたとき、天皇杯で川崎フロンターレと対戦しました。2回戦の試合でしたが、川崎は中村憲剛、大島僚太小林悠、大久保嘉人など、Jリーグの試合とほぼ同じメンバーでした。川崎のようなトップクラスの技術をもった選手を並べたチームだと、なかなか取りどころを見つけられず、前半は結果として下がる形になってしまいましたが、どこでアタックをかけるか全員が狙い、考えながら粘り強く動きました。私には、それも攻撃です。前半24分の先制点は大島のミドルシュートで、松江の選手のアタックが足りませんでした」

「1点取ったら2点目、3点目というバイエルンのようなメンタリティーの話と、非常に強い相手とやるときの話が出てきましたが、そのふたつがかけ離れていてはいけません。監督というのは、このチームでどのようなサッカーをするか、相手がどうであれ、その信念を曲げてはならないのですが、それはけっして精神論ではない。しっかりとした基本的な考え方を示し、日々の練習で徹底していく必要があります。僕は『32分割』でのポジショニングを考案し、それを元に選手たちと話してきました。そうしたスタイルを貫くには、体の使い方であったり、見て判断してさぼらずにそこに動ききるということを指導者が伝えていかなければならないと思っています」

 Q:「『32分割』とはどんな考えですか?」

「ピッチを縦に4分割、横に8分割して32分割。そのどこにボールがあり、相手がどこにいたら、それぞれがどこにポジションを取り、どういう手順で最終的にアタックしてボールを奪い取るかを決めておくのです。しかし実際には、それと違うポジションに行けば取れると感じる選手もいます。そうしたら、そこに行くことはかまわない。ただ、他の選手がそれを助けるポジショニングに行くのか、それとも奪ったときに飛び出して一気にチャンスをつくれるポジションに行くのか、あるいはまた、奪ったときには飛び出せて、アタックが失敗したときには戻れる『両面』のポジションにいるのか、僕はそこに注目して見ます」

「日本のサッカーは、数字にこだわりすぎているのではないかと感じるときがあります。『4-2-3-1だけど守備のときには4-4-2』などと伝えると、必ず4-4-2の形にしなければならなくなる。そこにセットしてから行くようになる。ボールが動いていなければそれでいいのですが、ボールも相手選手も常に動いています。その動きのなかで取るべきポジショニングは刻々と変わっていきます。動きのなかでのポジショニングのバランスが悪い。海外のチームにやられるのは、決まってそうした瞬間です」

 Q:「試合のなかで急にリズムが悪くなったときにはどう修正するのですか?」

「ハーフタイムなら、まずキャプテンに声をかけ、どこがどういうふうに問題があると見えているのか、具体的に聞きます。キャプテンが僕も気づいていない点を指摘してくれたらその点に対する言葉を選手たちにかけます。プレー中なら、少し具体的に、『右に7歩か8歩寄れ』とか、『そこだと前に出られないから、リスクを冒して3、4歩前でいいよ。その代わりセンターバックが少し左に寄れ』などと話します。選手たちの頭には『32分割』がありますから、そのどこに立てばいいのか、だんだん明確になっていく。もちろん、一朝一夕ではできませんが」

「ポジションを外れている選手に対して、『ポジション!』と注意したら、そこには、ボールの位置、相手の位置、自分たちの位置、そうしたものの関係のなかでポジショニングがどこなのかという意味がすべて含まれています。それがない状態で監督が『ポジション!』と叫んだら、選手は立ち止まってしまいますよね」

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