■「きわめて直線に近い曲線」
Q:「どうしたら改善できるのですか?」
「ドリブルで進んでボール1個分のスペースをつくってシュートやセンタリングをする。これは試合のなかで何回もあるシチュエーションですよね。利き足でないと精度が落ちるのは痛手です。足裏で地面をしっかりと支持することがポイントであれば、たとえば、裸足で歩くことが推奨されます。僕は、ピッチ状態さえ悪くなければ、練習後は裸足にさせ、ウォーキングなどをさせます」
「日本のチームでの話ですが、あるとき選手が『片さん、どうやったらふんばりが効くの』と聞いてきたので、逆に『どこを使えばいいと思う?』と聞き返したんです。『足の裏だと思う』『裸足で歩くのと、靴下はいて歩くのと違わないか』『違う』『じゃあ、どうしたらいいか、考えなよ』。そんな会話の翌日、彼は5本指のソックスを買ってきました。とても感心しましたね。5本指のソックスは、足の裏をしっかり機能させるという点で非常に理にかなっているのです」
「育成年代では、たとえば、リングを互い違いに置いて、左前へジャンプして左足で着地し、そこにボールを投げて右足でボレー、右前へジャンプしてこんどは左足でボレーというようなトレーニングをします。どっちが自分にとって得意で、どっちが不都合かということが意識できれば、不都合なことが出てきたときにどういう補い方をすれば推進力が出るなどの発想が生まれます。たとえば、サイドバックなら前への推進力からの切り換え、FWであれば、『極めて直線に近い曲線』の動き……」
Q:「ちょっと待って! 『極めて直線に近い曲線』って何ですか?」
「ドイツで教わったことなんですが、サッカーの動きは、直線でもなく曲線でもない。日本の選手は直線的に飛び出るからオフサイドになる。うまい選手は少しふくらませるように出ていくから、オフサイドにならない。フィリップ・トルシエさんが教えた『ウェーブ』とも少し違います。『ウェーブ』は完全に曲線の意識。相手を欺いたり、タイミングを測ることには有利ですが、速度に乗ることができません。『極めて直線に近い曲線』であれば、トップスピードに乗れます。落ちてボールを受けるときにも、まっすぐに落ちるのではなく、少し曲線を描くことで、前に向くチャンスあるのか、ボールを落として体の向きを変えて出ていくのかという選択肢ももつことができます」
「これを小学生に指導するには、マーカーを互い違いに置いてその外を通らせるようなトレーニングをします。マーカー同士の幅が広ければ、ジグザク走りになる。少し狭めると、曲線になる。もっと狭めると、子どもたちも『あっ、直線に近い曲線!』と直感できる。FWが前に出る動きは、これをやると確実に変わってきます。足が遅いから1対1で勝てないではなく、その動きを使うことによってディフェンスの位置が少し変わるから、相手より前に体を入れることができるのです」
(次回は、日本人のメンタリティーの問題、指導者の姿勢の問題などを聞く)