■「トレーニングで変えられる」

 Q:「具体的には、どのようなトレーニングをするのですか」

「僕は、たとえば、ピッチにラダーとかミニハードルが散乱している状況をつくります。そして僕が手にもったボールが落ちた瞬間に動いてくれとか、ボールを送った方向で1対1をしてくれなどと求めます。あるいは3対2の練習を、ラダーでスライドしていて、僕がボールを出した瞬間にラダーをまたいで前に出てトライアングルで狭めるというような状況をつくり出します」

「週に1回、たとえば日曜日に試合なら月曜日はリカバリー、火曜日はオフにして水曜日にコーディネーションを入れていく。選手たちは、『体より脳ミソが疲れる』『集中力を保たないとできない』などと言いますが、自分の目で見て判断し、的確に動くというサイクルがスムーズに動くようになると、試合のなかで、監督に言われなくても状況を修正できるようにもなります。これは非常に重要なことです」

 Q:「目から脳、そして体という神経伝達のルートは誰も変わるわけではありませんが、プロ選手でも、その経路にひどく時間がかかる人と、まるで脳を経ずに目と足がつながっているかような人がいるのはどうしてでしょうか?」

「それは磨かれないと出てこない能力なので、生まれつきのものではないはずです。おそらく成長過程のどこかで、ご両親などから何らかの影響を及ぼす刺激が与えられた選手でしょう。しかし小学生年代になっても、極端に言えば青年期、プロになっても、トレーニングでなんとかすることはできます。ドイツでは、『どうやっても変えられないのは、手足の長さと身長』と言います。それ以外は、トレーニングで変えられるという信念をもって指導しているのです」

「僕がやっているのは、たとえばこういうことです。7色のマーカーコーンをランダムに5個ずつ置く。その間をドリブルさせ、僕が色の順番を指定します。赤、黄色、緑など。目指さなければならないマーカーの順番を伝えるのです。そして3色回ったら必ず白に行く。これを順番を変え、白に行ったらボールに座らせる。そんな練習ですね。見て、判断して、動く。低学年でも速い子はすごく速い。その一方で、すごく時間がかかる子もいます。いわば眠っている神経を目覚めさせ、情報を通いやすくするトレーニングなのですから、指導者はそこにフォーカスして根気よく続けることが大事だと思います」

「少し段階を上げるなら、右手を上げたら、この順番、左手ならこう、あるいは僕自身があちこち動きながらそうした合図を出すなど、視覚を重視した練習にします。ドリブルしながら自然に顔が上がるようになります」

 「ドイツでは、休暇になると、やたらに公園に行って家族で走ったり、自転車に乗ったり、ボートをこいだり、自然のなかで過ごします。日本では『旅行』という家族が多い。あとディズニーランドとか。そんなところから違いが出てくるのかもしれませんが、それは単なる推測です」

 Q:「サッカーに即したコーディネーション能力の不足は、日本の欠点のひとつですか」

 「その前に、体の動きの問題をもう少し考えてみましょう。フランクフルトやザールブリュッケンの育成年代のコーチををしていたとき、ドイツ人のコーチが妙なことを言っているのに気づきました。『カバンを右肩にかけて30~40歩歩いたら、こんどは左肩にかけろ』と言うんです。なぜそんなことを言うのかと聞いたら、『ボールを右手で持って走るときと、左手で持って走るときでは体の感覚が違う。違和感を感じないかい?』。人は普通、利き手や利き足のほうに意識が行っていて、そうでないほうはなかなか意識されない。コーディネーションのトレーニングでは、そうしたことに目を向ける必要もあるんです」

 右利きの人は、なぜ右足でうまくボールをけることができるのか。右足の使い方がうまいからなのか。僕は、右足よりむしろ左足に目を向けるべきだと考えています。右足でうまくけることができるのは、左足が地面をうまく支持してくれるからです。地面に対し、どう体を支えるか、体重の乗り方、足の裏の働きなどがポイントになります。左足でけるときに違和感があるのは、右足がしっかりと地面を支持できないからなのです。ドイツでは、そうした考え方から、利き足の能力を伸ばすとともに、逆足の改善にも目を向けています」

PHOTO GALLERY 全ての写真を見る
  1. 1
  2. 2
  3. 3