2019年に現役を引退した田村直也。ベガルタ仙台と東京Vに所属し、J1通算86試合、J2通算230試合に出場した。引退に際して、ベガルタ仙台を「右も左も分からない、何も知らなかった自分を母のように育ててくれました」と表現し、東京Vは「世の中の厳しさ、希望や未来、現実…沢山のことを背中で教えてくれる父のような存在でした」と表現したのは記憶に新しいことだろう。
そんな田村にとって、2017、18シーズンに監督だったミゲル・アンヘル・ロティーナからの教えは特別なものだったという。Jで新風をもたらす戦術家からピッチで教えてもらった極意を、ここに明かす。
昨シーズン限りで13年間続けたプロサッカー選手を引退し、現在は仙台に拠点を移し新たな環境の中で新たな仕事にチャレンジしている。現役生活の中で様々な指導者に出会い、サッカー選手としても、人間としても色んなエッセンスを吸収してきた中で、東京ヴェルディ時代にロティ―ナ監督(現・C大阪監督)という指導者に巡り合えたことは本当に幸せだった。
ロティ―ナ監督のイメージといえば、守備の人、得点が入ってもあまり喜ばない、インタビューでは多くを語らない――そんな頑固なイメージがあるかもしれない。
すべてがそうだとは言い切れないが、実は選手やスタッフ、サポーターを含めたファミリーを大切にする偉大なリーダーで、チームマネージメントに優れ、向上心が絶えない勉強家である。あらゆるハプニングにもリスペクトを持って対応できる柔軟性も併せ持っている。細かいポジショニングの修正や時折見せる不敵な笑みを含め、未だにすべてを我々に見せてくれているのかどうか多少疑問ではあるが、
「すべては試合で勝つため」
それがロティ―ナである。そんなロティ―ナ監督の指導を2年間受けてきた身として、彼の人間性やサッカー観を紐解いていきたいと思う。
2016シーズンを18位で終えた東京ヴェルディ。冨樫剛一監督がこの年で退任したのに伴い、翌2017シーズンはロティ―ナ監督が就任した。以後ロティ―ナ監督のことは彼の愛称である“ミステル”と呼ばせていただく。
僕自身、初めての外国人監督ということで、日本人監督とは異なる“初めて”を体験したが、外国人監督を経験したことがある選手にとっても、ミステルの細かさは“初めて”だったかもしれない。
1月10日、チームのトレーニングがスタートした。練習は基本的に午前・午後の2部練で、午前はフィジカル&テクニック、午後はディフェンスの立ち位置のトレーニングだった。
とにかく来る日も来る日も午後のトレーニングではディフェンスのポジショニングの確認を繰り返した。
相手のあらゆる攻撃パターンに応じてその都度ポジショニングの修正を行い、相手からのクロスへの対応の一つとっても、その「深さ」や「枚数の違い」で細かい修正が行われる。
相手のクロスに対しては、基本的にはセンターバックとボランチが「L」の形を作り、センターバックよりも自陣ゴールからやや離れた位置にいるボランチが、マイナスのクロスに対して「カット」のポジションに入ると決まっている。
前年のヴェルディの全失点シーンを選手に見せ、失点のパターンを分析し理解させた。
・無理なチャレンジをするぐらいなら行かない
・ファールはしない
・スライディングは最後まで我慢する
これを守れば失点は必ず減る。
そう言い続けた。
ミステルは元々スペインリーグで活躍したストライカーだった。ミステルに取材をしたことがある記者の方はビックリするかもしれないが、本来の彼はいたずらが大好きで陽気なスペイン人である。
ただ、勝負ごとになると目の色が変わる。選手のミニゲームに入れば勝つためにとにかく手段を選ばない。その負けず嫌いが戦術やゲームプランにも表れていると思う。