彼が就任した最初のミーティングで僕たちに話してくれたことを今でも鮮明に覚えている。
それは3つのPの話。
「我々のポジショナルプレーにおいて大事なことは、ポジション(立ち位置)、ポゼッション(ボールを握る)、プログレッション(前進する)である」
つまり、それぞれが正しいポジションをとり、ボールを大切にしながら、正しい道から前進するという基準を明確にしてくれたことだった。彼がチームを離れるまでに伝えてくれた大切なことや大事な言葉はメモに取ってあり、僕にとってかけがえのない財産になっている。
ポジショニングという言葉を聞くと攻撃の立ち位置を思い浮かべがちだが、ミステルは守備のポジショニングに強いこだわりを持っている。そして、「場所を守る」という感覚を繰り返し教えてくれた。
ポジショナルプレーの原則として、何を優先して守備のポジションが決まるかをご存じだろうか。
優先順位の1番は「ボールの位置」、2番は「味方の位置」、3番が「相手の位置」である。
つまり、相手が自分の前に何人いても、ボールの位置によって正しいポジションをとれていれば問題ないし、逆に相手の立ち位置によって自分がいるべきポジションから動いてしまえば問題になる。また、それぞれのポジションの責任を明確にし、自分の前を通過する相手ボールはその選手がカットするという責任の所在をはっきりさせた。ビデオで何回もポジショニングを確認し、なぜ崩されたのか、なぜうまくいったのか、原因を説明してくれたことで頭が整理された。
ミステルのサッカーを語る上で外せないのは、ヘッドコーチのイバンの存在である。彼はバルセロナのスクールコーチの経験やヨハン・クライフ国際大学の講師を務めるなど、ポジショナルプレーというものを熟知している人物で、日本語や日本の文化についても研究熱心な素晴らしい指導者だった。ミステルとイバンはカタールのクラブですでに監督とヘッドコーチという関係で一緒に仕事をしていたため、僕らを指導する前からはっきりと役割分担が決まっていた。
基本的に守備を見るのがミステル、攻撃を見るのがイバンだ。共通認識を確認していることはもちろんなのだが、攻撃と守備という別のことを指導しているにもかかわらず、二人の意見がとにかく一致していることに驚いた。当たり前のことだと思う人もいるかもしれないが、監督とコーチが非常に細かい部分まで同じビジョンや価値観を持っていることはとても貴重なことで、二人に別の場所で同じ質問をしても同じ答えが返ってきた。それは、二人の良好な関係性を示していると同時に、自分たちが目指すべきサッカーが二人の中で明確に決まっているのだという証明にもなった。