ミステルとイバンのサッカーは、自チームのゴールキックからしっかりデザインされている。相手チームをスカウティングして、相手の立ち位置を考えた上でこちらのポジショニングを決定する。必ずしも左右対称に並ぶのではなく、どちらかのサイドに枚数を増やしてビルドアップを開始することもある。
 まず、ボールがキーパーからセンターバックに出されたのと同時にサイドバックが動く。自分がボールを受けられるようにすることはもちろんだが、同時にもともといたスペースを空ける動きにもなる。その空いたスペースに片方のインサイドハーフがポジショニングを取る。ここから先は連動してそれぞれが必要な立ち位置を取り、後は事前に用意された約3パターンある抜け方のうちのどれを選ぶか、相手のプレスのかけ方を見て自分で決断する。

 ミステルらのポジショナルプレーを経験して感じたことはたくさんあったが、一番印象的だったのは、試合前のスカウティングと違う状況が起きた時に対処する判断の的確さとスピードだった。この部分においては、ベンチから近いサイドバックの位置にポジショニングしていた自分が一番感じていた部分かもしれない。
 やはりビルドアップをしていく上で大切なのは、相手の出方を見てプレーの判断を変えられること。ゲームプランやビルドアップの形は相手の位置によって変わるからである。

 相手が何枚プレッシャーに来るかによって、“1stライン”(最前線)を越えるために必要な枚数は変わってくる。1人であれば2枚、2人来れば3枚、3人来た場合は4枚で、サイドバックが深い位置を取って相手の3枚を食いつかせてインサイドハーフへのコースを開ける。
 攻撃の進路も能力的な優位性があるなら左右非対称(アシンメトリー)になってもよい。サイドバックが内側に入り偽サイドバックのようなポジショニングを取りビルドアップでハーフスペースを使う、選手の特徴に応じて守備時は4-4-2、攻撃では3-4-3のローテーションを使うことも多かった。
 身長のバランス、セットプレーのパターン、左右の利き足の配置、プレスを受けた時のループパスの落としどころなど、細かい決まり事を話せばまだまだある。

 すべては試合で勝つため…。

 ロティ―ナ監督の魅力を話させてもらったが、この内容だけで、現在のセレッソ大阪の戦術分析につながるとは考えにくい。なぜなら彼らがやっていたことは東京ヴェルディの選手たちの特徴を最大限引き出すための戦術に過ぎないし、僕が今回話したことは、まだロティ―ナサッカーやポジショナルプレーの「原則の部分」でしかないからだ。

 彼らは常に分析されたその上を行くマインドを持っている。僕が指導を受けてからセレッソ大阪での経験を経て、彼らはさらに新しいインプットを続けているだろう。
 彼らがJリーグに落としてくれたものを、引き続き大切な宝物として、これからも自分自身学び続けたい。今シーズンも、ミステルが率いるセレッソ大阪や独自のサッカー観を持った外国人監督が日に日に増えてきたJリーグから目が離せない。

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