■例外なく漂っているわびしさ
選手たちに対して絶対的な権威をもち、グラウンドの上では王様のように振る舞う監督たち。しかしひとりシャワーを浴びるとき、選手たちの若い肉体・快活そのものの精神に、ひそかな嫉妬心を抱いているに違いないのだ。
ちなみに、その日、ドカティ監督は幸いにも私との会話を楽しんでくれた。インタビューは1時間に及び、私は日本を出発前に編集長と約束していた4ページもののインタビュー記事に穴をあけずにすんだ。
その後、いろいろなクラブの監督室を訪れる機会があったが、例外なくそのわびしさが漂っていた。1982年に訪れたアストンビラでは、スタジアムの改装によって監督室は広く、明るくなっていたが、それだけに、トニー・バートン監督がすっかり薄くなった髪の毛を気にしながらシャワーを浴びている姿を想像すると心が痛んだ。
松本育夫さんは、川崎フロンターレやサガン鳥栖での監督時代、選手といっしょに風呂にはいっていたという。選手たちは最初驚いたが、すぐに慣れて、いやがりもしなかったと(松本さんは)いう。松本さんは、世界でも希有な、幸せな監督だったに違いない。
ところで私は、女子サッカーチームの監督をしている。練習後の女子更衣室からは、キャッキャ、キャッキャというにぎやかな声が聞こえてくる。冬など、冷えきった男子更衣室でひとり着替えるとき、「あっちに行って、いっしょに着替えたい」と思ってしまう自分を、私は恥ずかしいとは思わない。