大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第177回「天皇杯はなぜ天皇杯なのか?」(3)NHK放送で人気に!7つの優勝カップの裏にあった「イングランドとの感動秘話」の画像
改めて日本にやってきたFAシルバーカップ。その再生の裏には、感動の秘話があった。©Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、日本サッカー界の大事なカップについて。

■ギネスものの「記録」

 そうした時代背景の中で、NHKの運動部が画期的な企画を出した。元日に国立競技場からサッカーの生中継を行おうというのだ。当時の正月は現在とはまったく違う。デパートも商店も3日まで休みが当然で、元日には「元旦競歩」が国立競技場を含む神宮外苑で開催されていたが、テレビ中継されるものではなかった。元日のテレビにスポーツはなかった。

 NHKの働きかけに日本蹴球協会が応え、「NHK杯元日サッカー」として「JSLチャンピオンvs大学選手権優勝チーム」、「東洋工業×関西大学」のカードが組まれた。放映はNHKの期待以上に好評だった。「面白かった」という声を聞いて、日本蹴球協会が「ならば元日に天皇杯の決勝を」と欲を出した。「NHK杯元日サッカー」は1回開催しただけで終わり、翌年、1968(昭和43)年度の第48回大会から天皇杯全日本選手権の決勝が「元日・国立」に固定されたのだった。

 そしてその形は、2013(平成25)年度の第93回大会まで、実に46大会にわたって続けられるのである。もしかしたら、これはひとつの大会の決勝戦が同日、同会場で開催された「ギネスもの」の記録ではないかと思うのである。

 旧国立競技場は2020年の東京オリンピックに備えて2014年に解体が始まり、新スタジアムが完成するまで、天皇杯決勝は日産スタジアム、味の素スタジアム、吹田スタジアム、埼玉スタジアムなどを転々とした。しかし、2014(平成26)年の第94回大会と2018(平成30)年度の第98回が、1月開幕のアジアカップに備えて決勝を12月に「前倒し」したことを除けば、決勝戦の「元日開催」は堅持されていた。

 そして2019(令和元)年度の第99回で、天皇杯決勝は完成したばかりの新国立競技場に移る。試合日はもちろん2020年の元日。アンドレス・イニエスタを筆頭にスペイン代表選手を並べてJリーグで旋風を巻き起こしたヴィッセル神戸が初めて決勝に進出し、鹿島アントラーズを2-0で下して初優勝を達成した。

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