■新しい羊毛ジャージが「悲劇」の原因か

 ウェンブリー・スタジアムは完成して4年目。この試合は9万1206人の大観衆で埋まった。30万人もの人がチケットを申し込み、英国国鉄はカーディフから何本もの特別列車を出した。この試合はまた、初めてラジオの生中継が行われたFAカップ決勝戦として記録されている。

 アーセナルは有名なハーバート・チャップマン監督が率いて2シーズン目。イングランド・サッカー界を席巻する1930年代の「黄金時代」はまだ始まっていなかった。試合はそのアーセナルが優勢だったが、後半29分にカーディフのFWヒューイー・ファーガソンが放ったシュートをアーセナルGKダン・ルイスがキャッチしそこない、ボールは最後にはルイスのひじに当たってゴールに転がり込んだ。これが決勝点となった。

 ちなみに、カーディフはその2週間後にはウェールズのFAカップ決勝戦にも出場し、北ウェールズの小さな町からきたリルを2-0で下して、世にも珍しい「国内カップ・ダブル」を達成した。

 もうひとつちなみに、当時のGKたちはセーターのように羊毛で編んだジャージを着ていたが、ルイスはそのジャージが新しく、油が抜けきっていなかったため滑ったのだと主張した。その逸話から、その後、アーセナルのGKは、試合前に必ずユニフォームを洗濯するようになったという。

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