■「白か黒か」持っている男
だが翌日は、誰も想像さえできなかった悪コンディションとなった。10センチも積もった雪。その下の泥沼のようなグラウンド。あるところではボールが転がり、あるところではロングパスが落ちたところでピタリと止まった。どちらでもグラウンダーのパスなど使えず、「世界一」を争うプロ選手たちがひたすら相手ゴールに向かってボールを蹴り続け、そこに突進した。
そして1-1で迎えた延長後半4分、ボール処理をもたついた相手DFからFCポルトのマジェールが奪い、ペニャロールGKエドゥアルド・ペレイラが前進しているのを見極めると、その頭上を越して35メートルのシュートを放った。いったんは見送ろうとしたペレイラだったが、ボールがゴール前の黒いところに落ちるのを見て、また追おうとした。黒いところは土であり、ボールが止まるはずのどろんこだった。
だがボールが落ちたのは、「黒と白」の境目だった。ボールは止まらず、コロコロと不思議な転がり方をしてペニャロール・ゴール内のラインを割った。明暗を分けたのは、マジェールの技術でも、もちろん、FCポルトのサッカーの超近代的な戦術でもなかった。ボールの落下点が「白か黒か」だった。わずかに「白」が勝っていたのは、まさに「幸運」だった。
このとき54歳。トミスラフ・イビッチは「運」を頼りにする人ではなかったが、十分「幸運」も持っていた。