■見抜いた才能は「イタリア」へ
「前線で奪い返せなかったときには、当然、攻撃は自陣、多くはディフェンスラインから始まる。イングランドでは自陣から一気に相手陣深くにボールを送り込むが、私たちは、自陣の深いところから両サイドを使い、テンポの速いパスを織り交ぜて攻撃を組み立てる。そうしたなかで、ルイ・バロシュのようにスピードがあってドリブルが得意な選手は、前が空いていればどんどん進んでいく。これまでのFCポルトは短いパスが中心だったけど、ルイ・バロシュの登場でポルトのサッカーは新しい時代に入ったと思う」
ルイ・バロシュは、イビッチが見いだし、レギュラーポジションを与えた選手だった。FCポルトには、前シーズンまでパウロ・フットレという天才ドリブラーがいて2トップの一角を占めていたが、この年の夏にスペインのアトレチコ・マドリードに移籍してしまった。イビッチはそれまで左サイドのMFとしてプレーしていたアルジェリア人のラバー・マジェールをFWに移し、空いたポジションにルイ・バロシュ(21歳)を抜てきしたのである。
159センチと非常に小柄だったこともあり、ルイ・バロシュは評価が低く、FCポルトとプロ契約した後には連年レンタルで出されていた。しかし、イビッチの下、FCポルトでレギュラーとなると、すぐにポルトガル代表に選ばれ、ポルトガル年間最優秀選手賞も獲得して、わずか1年後、1988年にはイタリアのユベントスに移籍することになる。イビッチは若い選手を育てるのが得意だったが、このあたりにも才能を見抜く「目」の確かさが感じられる。