■プログラムで明かした「手の内」

 トミスラフ・イビッチは、欧州のトップクラスで今、何が起こっているか、それに対してどのような戦いをしようとしているのか、懇切丁寧に話してくれた。現在、こんなに自分の「手の内」を明かしてくれる監督がどこにいるだろうか。トヨタカップのプログラムでは、その考え方の一端を示すことができ、その後の日本のサッカーに少なからず寄与したのではないかと思っている。

 だがひとつだけ、「イビッチより私のほうが正しかった」と思うことがある。

 トヨタカップの前夜、私は東京プリンスホテルの彼の部屋を訪ねた。そして彼が隠すことなく、さまざまなことを教えてくれたことに感謝し、最後にこう言った。

「グッド・ラック(ご幸運を)!」

 彼はニヤリと笑ってこう言った。

「私のチームは、幸運をあてにするようなチームではないよ」

 私はイビッチらしい言葉だと思った。

「そうでしたね。おやすみなさい」

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