大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第158回「天才トミスラフ・イビッチが語った監督力」(3)時代を先取りする「戦術」、代表FWを生み出す「目」、世界一をもたらしたのはの画像
旧ユーゴスラビア代表の「最後の監督」といえば、日本代表監督を務めた故イビチャ・オシム氏。天才の宝庫ユーゴスラビアには、日本ではあまり知られていない名将がいる。撮影/渡辺航滋(Sony α‐1)

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、「東欧が生んだ智将」。

■「新しい」ゾーンディフェンス

 予定の時間が過ぎてもインタビューは終わらず、翌日もまた朝8時半から話すことにした。このインタビューで最も興味深い戦術についての話は、2日目に出たものだった。

「国によって守備のやり方が違う。現在はゾーンとマンツーマンの併用、すなわち基本的にゾーンで守り、相手の主要な1人か2人にはマークをつけるという形が欧州の主流になっている。だが私たちは『完全なゾーンディフェンス』でプレーする。システムとしては、相手によって4-4-2でも4-3-3でも4-5-1でも5-4-1も使うが、私たちは決して個々の選手にマークをつけるということはしない」

「私たちのサッカーで守備において集中しなければならないのは、まずボール。次に人、そして最後にスペースという順番だ。サッカーの新しい考え方と言えるだろう。従来のゾーンディフェンでは、スペース、ボール、人の順だった。マンツーマンでは、これが人、ボールとなり、スペースという考え方はあまりない」

「私たちが考える『新しいゾーンディフェンス』では、まずボールに集中することが重要なポイントになる。たとえばDFが攻め上がる。ボールを失ったら、古い考え方では一生懸命にポジションに戻らなければならない。戻って相手の攻撃を待ち構えるということだね。しかし、FCポルトのようなクラブでは、攻めていって失い、一生懸命に戻っても、相手は来ないんだ」

「だから私たちは、攻めに出てボールを失っても、さらにボールに集中し、ボールを奪い返し、新しい攻撃を生み出さなければならないと言っている。私たちは、こうしたサッカーを『プレッシングスタイル』と呼んでいる」

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