■「いつも驚嘆する」外野手の悠々とした捕球
蹴られたボールがどこに落ちるのか、落下点を見極める脳のメカニズムはけっして単純ではない。多くのサッカー選手は経験(たくさんの練習)によってそれを習得するが、プロはともかく、アマチュアレベルだと、何年間サッカーをやっても長いボールをヘディングできない選手がいる。「落下点」の見極めが、けっして単純な作業ではないことの証明だ。
そもそも、コンピュータ開発のきっかけは、大砲の「着弾計算」だったと言われている。第2次世界大戦前、人力で大砲の着弾点を計算すると、1週間もの時間が必要だった。それでは勝てないと、アメリカで開発が急がれたのが、人の何百倍で計算することのできる装置、コンピュータだった。それほど、打ち上げられた物がどこに落ちるのかを計算するのは大変だったのだ。
撃ち上げスピード、角度、重力、風向と風力、気温、空気抵抗など、すべての要素をインプットし、複雑な計算が必要なのが、「着弾計算」、あるいは「弾道計算」なのである。
現場では正確な計算などしている時間はない。だから、だいたいの計算で撃って、着弾点を観測し、修正していくやり方が、当時はとられていた。そのロスをなくすためにコンピュータが必要になったのだ。
ところが、野球選手やサッカー選手はそれを「人力」で平気でやっているのである。とくに打球の落下点を見極める野球選手の能力は、スポーツ選手のなかで、というより、人類のなかで図抜けているのではないか。打者が打った瞬間、ボールが上がった瞬間に落下点を見極め、そこに一直線で走って悠々と捕球する外野手を見ると、私はいつも驚嘆する。(2)に続く。