大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第153回【「奇跡の12ゴール」最強スペインが産声を上げた日】(3)全員攻撃で「11‐0勝利」を目指すスペイン、訪れた「先制のチャンス」に痛恨のPK失敗の画像
現在のスペイン代表の攻撃を担う左サイドのニコ・ウイリアムス(手前)と右サイドのラミン・ヤマル(右)。スペインの攻撃サッカーの萌芽は厳しいノルマを課された、この一戦にあった…。撮影/原悦生(Sony α1使用)

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、17歳の天才ラミン・ヤマルの1得点4アシストの活躍もあってEUROで優勝したスペインが、苦しみから這い上がり、無敵艦隊へと名乗りを上げるキッカケとなった「奇跡の試合」。本当にあるんですね、そんなことが…。

■予選突破が絶望的…「目立つ」空席

 12月21日水曜日、会場はセビージャのベニト・ビジャマリン。5万人収容。スペインには、レアル・マドリードが所有するサンティアゴ・ベルナベウ、FCバルセロナのカンプノウという、ともに9万人規模のスタジアムがあり、前年のワールドカップのために改装されて、当時の欧州では第1級の施設となっていたが、どちらもこの大事な一戦には選ばれなかった。

 サンティアゴ・ベルナベウで試合をすればバルセロナの選手たちが口笛を吹かれ、カンプノウに行けばレアルの選手たちに口汚いブーイングが浴びせられる。スペイン代表の監督たちは、ホームゲームの会場として、この2スタジアムを避けるよう要望していた。

 オランダの大勝により予選突破がほぼ「絶望的」という見方が圧倒的ななか、ベニト・ビジャマリンの観客席を埋めたのは、わずか1万8871人のファン。スタンドには大きく空席ができた。

 ミゲル・ムニョス監督が選んだスペイン代表11人は、けっして2つのビッグクラブの利害に立ったものではなかった。彼はチームづくりを優先し、その選手がどのクラブに属しているかなど気にも留めなかった。前年10月にスタートを切ったこの欧州選手権予選が快調に進んだわけではないが、チームは確実に成長していた。そしてマルタとの最終戦に、ミゲル・ムニョス監督は「得点を取るためのチーム」を送り込んだ。

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