■賞品は「1匹」の野ウサギ
イギリス軍の軍服のコートはカーキ色だった。ドイツ軍のコートはグレイだった。すぐに誰かがヘルメットを置いて一対のゴールをつくり、試合になった。そう広い場所ではない。プレーヤーは「両チーム」合わせて200人近くもいた。それでも彼らは一生懸命にプレーした。キックし、ヘディングし、転んで、点を取っても取られても、大いに笑った。兵士たちは幸せな気分でいっぱいだった。
ある場所では、「賞品」まで出た。英国兵がとらえた1匹の野ウサギだった。両チームとも「賞品」を見て目の色を変え、勝ったドイツ兵たちは大喜びだった。
「試合」に加わらなかったひとりのドイツ兵が、イギリスの下士官のところに歩み寄ってきて直立すると、ドイツなまりの英語でこう話した。
「おはようございます、サー。自分は北ロンドンのアレクサンダー・ロードに住んでおります。できることであれば、明日のウーリッジ・アーセナルとトットナムの試合を見たいと願っております」
アーセナルとトットナムは、もちろん、ロンドンのライバル同士であったが、「ウーリッジ・アーセナル」は旧名称で、この戦争が始まる直前の夏、「アーセナル」に改称されていた。