■タバコと引き換えに「散髪」

 そして翌朝、ドイツ軍の塹壕を見張っていたひとりの兵士が「白旗が出ている」と声を上げた。見ていると、白旗を手にしたドイツ兵が塹壕から出て、ゆっくりとこちらに歩いてくるではないか。彼は何も武器を身につけていない。

 イギリス兵も、銃を残したまま、塹壕から出た。それを見た両軍の兵士たちが次々と塹壕からはい上がってきた。彼らは「無人地帯」で笑顔で向き合うと、握手をかわし、手にしたタバコやワインやチョコレートを交換した。あるイギリス兵は「記念にあなたの軍服のボタンがほしい」とねだり、ドイツ兵が2個のボタンをひきちぎって渡すと、自分の軍服からも2個をひきちぎり、交換した。

 イギリス兵のなかには、見習いの理容師だった若い兵士がいた。彼は数本のタバコと引き換えにドイツ兵の散髪を引き受けた。「あまりに長くて見苦しいやつがいたからね」と、彼は仲間たちに語った。

 塹壕から出た兵士たちの最大の気がかりは、「無人地帯」に放置されたままになっていた仲間の遺体だった。西部戦線では定期的に数時間の「停戦」をして互いの遺体収容作業が行われていたが、このときにもそれがまず優先された。

 そのうちどこかからか、サッカーボールが現れた。おそらく、サッカー好きのイギリス兵が戦場まで携えてきたものだったのだろう。イギリス兵がボールを蹴ると、ドイツ兵たちから大歓声が起こり、たちまちボールの回りに人が集まった。サッカーは、すでにドイツでも人気競技だった。

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