こらえていた涙が小林悠の頬を伝った。試合後の挨拶を終えて、引き揚げてきた川崎フロンターレの選手たちを、コーチングスタッフが出迎えたときだった。
「やっぱりユウが決めてくれたな」
右手を差し出してきた鬼木達監督と握手を交わした直後に、川崎ひと筋で15年目を迎えている、37歳のベテランストライカーは涙腺を決壊させた。
ガンバ大阪と1-1で引き分けた、18日のJ1リーグ第34節後の取材エリア。2日前の16日に今シーズン限りでの退任が発表されていた指揮官と、ホームのUvanceとどろきスタジアムのピッチ上でかわしたやり取りを小林が明かした。
「あのときはちょっとこらえ切れなかったですね。正直、一昨日にオニさんの発表があって、練習から自分のなかで力が入らないというか、今日の試合前も『自分が出て大丈夫かな』という感じで。それくらい自分にとって大きな存在だったので」
50歳の鬼木監督を、小林は畏敬の念を込めて「同期」と呼んでいる。拓殖大学から川崎に加入した2010シーズン。川崎で現役生活を終えていた鬼木氏も、3年間の育成・普及コーチをへて、トップチームのコーチに就任していたからだ。
「試合に出られない残り組の練習で一緒にやってくれるとか、悔しい思いをしているときには励ましの言葉をかけてくれた。コーチ時代から人間性の素晴らしさを感じていたし、本当に長い月日を一緒に過ごしてきたのでやはり悲しさがあります」