■山田新「何も考える余裕もなかった」

 しかし、一気に高まった歓声がため息に変わる。山田が空振りした瞬間だった。
「やべぇ、と思って。けっこう勢いをもってニアへ入っていって、マルシーニョから本当にいいボールがきたのに当たらなくて、ファーに誰かがいるかと思ったら」

 天を仰ぎたくなる思いをこらえながら、山田はステップが合わずにそらしてしまったボールから目線を切らさなかった。振り向いた先にいたのは鳥栖のDFキム・テヒョン。韓国出身の23歳もまた、山田が空振りするとは思わなかったのだろう。キム・テヒョンがクリアしきれなかったボールがニアへはね返ってきた。

「何も考える余裕もなかったけど、とにかく緊張しました」

 無我夢中で飛びついた山田が、頭で正真正銘の決勝弾を叩き込む。感極まったあまりに、ゴール裏のスタンドを埋めたファン・サポーターへ飛び込み、至福の思いを共有した山田は「本当は一発で決めたかったんですけど」と再びはにかんだ。

「試合がけっこう止まっていたし、実際にアディショナルタイムが7分と出ていたので、みんなで『7分あるぞ』と言っていたし、自分的には必ずチャンスがくると思っていたし、そのときには絶対に点を取ると言い聞かせていました」

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