■その国の歴史がフットボールを後押しする
スペインの壁は、やはり厚かった。
パリ五輪に出場したU―23日本代表が、準々決勝で力尽きた。チャンスはあったし、不運もあった。しかし、終わってみれば0対3である。
悔しさとともにシビアな現実を突きつけられた一戦を、アトランタ五輪代表FW松原良香氏に分析してもらう。松原氏は静岡県の名門・東海大一高校在籍時から全国的に注目を集めたFWで、卒業後の1993年にウルグアイの強豪ペニャロールでプロキャリアをスタートさせた。94年に帰国してジュビロ磐田の一員となり、96年にはアトランタ五輪代表に出場する。「マイアミの奇跡」と呼ばれたブラジル撃破のピッチにも立った。
その後は国内外のクラブを渡り歩き、2005年まで現役を続けた。海外での豊富な経験からスペイン語と英語に堪能で、ウルグアイを中心に南米サッカーに独自のネットワークを持つ。23年にはJ3のいわてグルージャ盛岡の監督を務め、現在は解説者として活躍している。現場での経験が生かされた試合分析は好評だ。また、普及や育成にかねてより力を入れている。(#1、2のうち1)
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歴史がフットボールを後押ししている、と感じずにはいられませんでした。
私が多くの知己を持つ南米のウルグアイは、人口およそ350万人で国土も小さい。それでも、ワールドカップ初代優勝国であり、激戦の南米地区で存在感を発揮しています。世界的なスターを何人も輩出している。それは、長く代表監督を務めたオスカル・タバレス氏が中心となって、サッカー協会が育成と強化の仕組みを作っていったからでした。
スペインにも同じことが言えるでしょう。どの年代の代表チームも4-3-3のシステムを採用していて、ピッチ外でもサポート体制を充実させている。そのひとつが分析です。
0対1で迎えた73分、スペインの左CKからフェルミン・ロペスに豪快な一撃を突き刺されました。日本の選手たちはゴール前に意識が集中していて、ペナルティボックスの正面外で待ち構える彼を完全にフリーにしてしまった。藤田譲瑠チマと関根大輝が必死に寄せたものの、シュートをブロックすることはできませんでした。
次の1点が勝負を分けるという時間帯に、スペインはあらかじめデザインした形で決めてきた。日本も分析には力を入れていて、実際に成果もあげていますが、スペインはその先を行っていた、と言うしかないのかもしれません。日本が知らないことを彼らは知っている印象でした。
この試合のポイントとして、僕は「日本の左サイド」に注目していました。開始3分、FW斉藤光毅が左サイドでボールを受けます。ここで、スペインの右SBは1対1で斉藤を止めた。スペインが日本を分析していることが、すでにこの場面から伺えたのです。