■体温が奪われて「本当に死ぬんじゃないかと思った」
試合は前半終了間際にFCポルトが先制、そのまま終了かと思われたが、後半35分にペニャロールが追いつき、なんと延長戦となった。
かわいそうだったのは、寒さにこごえながら試合を見ていたファンだった。当時の国立競技場は、屋根が機能しているのはメインスタンドのほんの一部だけ。朝から並んで雨に濡れ、その後の雪と急激な気温の低下で、ファンはみんな凍えていた。
私の友人のある男性ファンはその頃30代のはじめだったが、何人かのグループで観戦に来ていた。席は雪が下から吹き上げてくる「吹きさらし」のバックスタンド上部のS席だった。グループには関西から朝の新幹線でやってきた女性ファンが2人いた。彼女たちは雨具の用意がなかった。そのため、彼は自分が着ていた防寒コートや雨具を彼女たちに着せ、自分はスタジアムの売店で買った薄いビニールのポンチョひとつでの観戦となった。
すぐに体温が奪われ、体が震えだした。「試合なんかどうでもいいから、ともかく早く帰りたかった。本当に死ぬんじゃないかと思った」と、後に彼は語っている。さらに、その苦難が、あと30分も続くのだ。スタンド裏のコンコースに「避難」したファンも多かったが、そこも北からの風にさらされ、濡れた体を冷やした。
いま考えると、観戦客に死亡者が出なかったのは奇跡のようにしか思えない。風邪を引いた人はたくさんいたに違いない。しかし「トヨタカップ観戦で死亡」というニュースは見かけなかった。